リスキリングが話題だ。学び直しで人材力の強化を図ろうという国・企業の考えは理解できるが、いったい「何」を学べというのか。近著『超「超」勉強法』が話題の野口悠紀雄さんは「日本企業の全員が統計学の基礎を身につけ、それを日常の仕事で活用するだけで、日本は大きく変わる」という──。(第6回/全7回)

※本稿は、野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

日本経済弱体化の最大の原因は人的能力の劣化

リスキリングが重要であると、さまざまなところでいわれるようになりました。岸田文雄首相も、2022年10月3日の所信表明演説で、リスキリングの支援に5年で1兆円を投じるとしました。

「リスキリング」とは、転職して新しい仕事を行なうために、あるいは、いまの仕事で必要とされるスキルが大きく変化していることに適応するために、新しいスキルを獲得することです。

最近では、デジタル化との関連でのスキルが問題とされています。日本のデジタル化が世界の水準に比べて著しく遅れており、その遅れを取り戻すために、すでに仕事についた人も、新しいスキルを身につける必要があるということです。

学び直しは大変よいことです。日本経済が弱体化した最大の理由は、人的能力の劣化にあります。世界が大きく変わっているので、新しいスキルを身につけなければ、生き残ることはできません。

未来的なインターフェースを探しているエンジニアのグループ
写真=iStock.com/metamorworks
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セミナー業者への補助策に終わらないか

日本再生のためには、一人一人が、学校を出てからも、勉強を続けることが必要です。つまり、日本が「勉強社会」になることが必要です。

こうした時世を背景に、リスキリングのためのセミナーが、多数提供されています。そして、政府や自治体による補助制度がいくつも作られています。企業がこうした補助金を受け、社員にセミナーを受講させる動きが広がっています。

それによって、社員の知識は広がるかもしれません。しかし、社員のスキルが向上する保証はありません。結局は、セミナー事業者への補助だけで終わってしまうことにならないでしょうか?