ボドイが盗んだ桃はテキ屋には流れていなかった
(前編から続く)
――ボドイが農園から盗んだ大量の桃が、駅前などで見かけるテキ屋的な販売者に流れたという説が一時期流れていました。「なぜ駅前で売っている桃はあんなに安いのか」という疑問を抱いていたと人もいたと思います。この説を信じた人もいたと思うのですが、実態はどうだったのでしょうか?
【安田峰俊】ボドイが桃窃盗の犯人として逮捕された後も、しばらくその説がささやかれていました。また、当時はフリマアプリ「メルカリ」に大量の桃が出品されていることも話題になりました。しかし、いずれもボドイの桃窃盗とは一切関係ないことが捜査からも取材からもわかっています。
あのときテレビや新聞の記者たちが「テキ屋」と「メルカリ」にこだわった一因は、彼らが警察からのリークに依存しすぎていたためではないでしょうか。
――警察も捜査はしているものの実態はつかめていなかったんですね。でも、「なにもわからない」では格好がつかなかった。あるいは警察もある種の思い込みがあったと。
【安田】私の関心は外国人そのものに向いているので、日本の警察の批判はしません。ただ、ものすごい量の桃が盗まれたので、当初は大規模な組織犯罪であると山梨県警が判断しただろうとは思います。家畜・農作物窃盗事件(群馬県内でブタ約720頭、ニワトリ約140羽、ウシ1頭、ナシ約5700個などが盗まれた)のときも同じです。群馬県警は「群馬の兄貴」ことレ・ティ・トゥン容疑者を実行グループの主犯格だとして逮捕しましたが、結果的には誤認逮捕でした。警察としては、世間の関心が高い事件について巨大犯罪組織を見つけ出し、それを捕まえれば大金星です。そういう思考にひきずられた部分は、もしかしたらあったのかもしれません。
しかし実際のところ、ボドイによる犯罪はバラバラに行われているものであって、横のつながりも薄く、必ずしも組織化されてはいません。同じ部屋で共同生活していて、比喩抜きで「同じ布団で寝ている」同居人についてすら、相手がどんなシノギで稼いでいるのか、把握していないような薄い関係なんですよ。現時点までの警察や大手メディアは、その内在的論理をまだ把握しきれていない印象は受けます。