たった1回の体験ですべてがそうだと一般化してしまう

ところが、成熟していると考えられる年齢になっても「全か無かの思考」が強く働いてしまう人たちがいるのも事実です。それはなぜなのか? それは「信念バイアス(Beliefbias)」が深くかかわっているからです(※2)

これは簡単に言うと「A=B、B=Cであれば、A=C」と思ってしまう認知バイアス。「三段論法バイアス」とも言われます。たとえば、こんなことを考えてみてください。

「わたし=田舎生まれ」(事実)
「田舎生まれ=出世できない」(信念)
→「わたし=出世できない人間だ」(結果)

ここで考えてもらいたいのは、「田舎生まれ=出世できない」というのは本当なのか? ということです。田舎出身の人が必ず100パーセント、出世できないということは考えられません。

たとえば、「好きな人にふられたから、自分は魅力がない」、「あの人に裏切られたから、もう人は誰も信じない」、「試験でいい点をとれなかったから、わたしはいい大学に合格できない」、たった1回の体験で、わたしたちはすべてがそうだと一般化してしまうことがあります。これが「信念バイアス」です。

そして、この「信念バイアス」はわたしたちの能力さえも変化させてしまうのです。

日本の1歳の女の子の古い写真。
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです

「信念バイアス」は記憶力やダイエットにまで影響する

これは米国で行なわれた実験ですが、18~22歳の若者と60~74歳の高齢者をそれぞれ64人ずつ集めて、単語のリストを見て覚えてもらいました。

そして2つのグループに分けてこう伝えました。

A:「これは記憶力の試験です。高齢者のほうが成績は悪くなります」
B:「これはただの心理学の試験です」

その結果、Aのグループは、若者の正答率が50パーセント、高齢者が30パーセントとなりました。ところが、Bのグループは、高齢者の正答率が50パーセントになり、若者と同じになったのです(※3)

つまり、「歳をとると記憶力が落ちる」という力を奪う「信念バイアス」をもつと、わたしたちの脳まで影響を受けて、本当に記憶力が落ちてしまうことがわかったのです。

また「信念バイアス」はダイエットにも影響を与えます。これは、ハーバード大学で行なわれた有名な研究です。ホテルのベッドメイキングの従業員に次のように説明しました(※4)

「ホテルのベッドメイキングは、ただの作業ではなく素晴らしいエクササイズ効果があります。1つの部屋を掃除するだけで合計300キロカロリーのカロリー消費があります。

だから、複数の部屋を掃除すると、たった1日の仕事で1日に必要な運動量(200キロカロリー)を簡単に消費してしまうんです」

そして、1カ月後、従業員の体重、体脂肪率、ウエストとヒップの比率、BMIを調べたところ、運動効果を伝えられなかったグループに比べて、なんと見事に体重や体脂肪を含むすべての項目がマイナスに減量してしまったのです。なかにはくびれがくっきりできる人まで出てきたそうです。