「デザインは良いけど、技術は古い」というレッテル

ただ、大阪大学の延岡健太郎教授が言うように、価値というのは機能的価値と意味的価値が別々に存在しているのではなく、両者はお互いに関係し合いながら総合的な価値を作っている。デザインだけに注力したゴーン初期の日産は確かに、新しいマーチなどデザインが評価されて販売は好調であったが、次第に、日産は「デザインは良いけど、技術は古い」というレッテルが貼られていく。

2013年1月25日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで発言する、ルノー・日産アライアンス会長兼CEO(当時)のカルロス・ゴーン
2013年1月25日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで発言する、ルノー・日産アライアンス会長兼CEO(当時)のカルロス・ゴーン(写真=World Economic Forum/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

技術がもたらす機能的価値が競合他社と比べて大きく見劣りするようであれば、いくら意味的価値だけが大きくても総合的な価値が大きくなるわけではない。機能的価値の高さは本物感につながるので、そのこと自体も意味的価値を押し上げる要因となる。

例えば、2000年代初頭の中国ではアウディの大型セダンであるA6に中型セダンであるA4クラスのエンジンを搭載した、デザインだけが一つ上のランクのA6という中国専売モデルがあった。当初はデザインさえ高級であれば、中身はグレードの低いモデルのものと一緒でも構わないという顧客が一定数いたようだ。

しかし、中国の経済が発展し、機能的価値の高さも車格の高さを示すということに気づく顧客が増えると、ドイツ本国と同等なA6のほうが売れるようになった。高い機能的価値がベースとしてあって、初めて意味的価値の高さも重要になるということだ。

米国中西部や新興国では、まだまだHVが活躍する

つまり、日産の優れたデザインを活かすために必要だったのは、日産の優れた技術による機能的価値の創造がコンビになっていることだ。GT-Rとともに技術の日産を象徴するクーペタイプのスポーツカーであるフェアレディZは一次生産を完了していたが、ゴーン氏が日産リバイバルプランの完了を宣言した2002年に再度、新型フェアレディZを開発したのも、技術の日産という機能的価値の高さと、機能的価値の高さから創造されるステータス性という意味的価値を生み出すためであったと考えられる。

一方、2000年代に内燃機関の技術の集大成とも言える、HV技術をトヨタとホンダが相次いで開発し、ヒット商品を生み出す中で、コスト優先の戦略の日産はHVブームに乗り遅れた。

今日、欧州を中心にこれからの自動車はEV一色になるという夢物語がまことしやかに語られているが、米国の中西部や多くの新興国など、いまでも石炭火力の依存度が高い国では、EV化はCO2削減につながらない。トヨタやホンダは、欧州やカリフォルニアなど、EV化に意味のある地域ではBEVを中心にラインアップし、米国中西部や新興国ではまだまだHVが活躍するというストーリーを描いている。