トヨタ自動車は、4月1日付で豊田章男氏が社長を退任し、会長に就任する。自動車ジャーナリストの小沢コージさんは「豊田章男社長になって以来、全トヨタ車の走り味やクオリティ、販売システムが飛躍的に上がった。これは豊田社長がマスタードライバーとして走りの味を決めていることもあるだろう。次の課題はEVでも世界一のクルマを作ることではないか」という――。
豊田章男氏。TOKYO AUTO SALON 2023 プレスカンファレンスにて。
写真提供=トヨタ自動車
豊田章男氏。TOKYO AUTO SALON 2023 プレスカンファレンスにて。

章男社長になってクルマのレベルは格段に上がった

トヨタ自動車の名物トップ、豊田章男社長が退任を表明し、会長に就任することになりました。立場を変えてもまだまだ辣腕らつわんは振るわれると思いますが、現場からは一歩引かれるのでしょう。約13年間、大変お疲れさまでした。

残念ながら小沢個人としては章男氏には1、2度直撃できたくらいで、ジャーナリストとして特別なエピソードはありませんが、商品レベルでは驚かされたことは何度もあります。

2009年の就任当初は、評価しているのか皮肉なのか、よく分からないですが「大政奉還」と言われました。私には会社経営に関する数字の良しあしは判断はできないのですが、商品レベルでは章男社長になって明らかに質が変わりました。

思い切ったクラウンの大改革

どこが変わったのか? わかりやすい最近の例から申し上げますと2022年9月にフルモデルチェンジした日本を代表する高級車クラウン(16代目)でしょう。

1955年に生まれ、67年間もリア駆動の高級セダンとして日本に君臨。バブル期の1990年度は国内だけで年間約24万台も販売。ヒット時のアクアやプリウスと同等の台数であり、どれだけ人気が高かったかわかります。

かたや直近、最後のFRセダンとなった15代目クラウンは2018年発売。同年は5万台を越えましたが、翌2019年は3万6000台、2020年は2万2000台と落ちていきました。そこで今回のSUV化であり、FFプラットフォームベースの4WD化に踏み切れたのだと思います。

とはいえコロナ禍もありましたし、直近2022年上半期はひと月1500台をキープしていました。クラウンとしては低い数字ですが、かつての競合たる日産セドリックやホンダ・レジェンドがほぼ月数100台の3ケタカー、時には数10台の2ケタカーであったことを考えると、末期のFRクラウンでも十分売れていたと言えます。

そもそも1台平均価格で600万円する高級セダンが日本でひと月1500台売れるのは決して悪い話ではありません。ドイツプレミアムでもメルセデス・ベンツEクラスやSクラスは日本で月1000台も売れません。もちろん他国で売れているということはありますが、末期のFRクラウンは決してダメなクルマではなかったのです。

しかし昨年クラウンは大変身し、SUV化とFFプラットフォーム化に踏みきりました。明らかに当時の章男氏の15代目の途中での「マイナーチェンジは飛ばしてもよいので、もっともっと本気で考えてみないか」の一言がきっかけです。