「水は加湿剤になるのか」という研究はあまりない

水が加湿剤として働くという考えが正しいのか、それとも間違っているのか、研究すればいいではないか。しかも、この実験は簡単であるから、すでに多くの実験が行われたに違いない、と多くの人は思うだろう。

実験の手順は、こうだ。まず、人々をふたつのグループに分ける。ひとつは1日中、水を積極的に飲む。もうひとつは、ふつうに水を飲む。1カ月後、両グループの肌のなめらかさをくらべれば、より多くの水分を摂取すれば、より滑らかな肌になるかどうかを判定できる。だが、このような研究が行われることは、まずあり得ない。

理由のひとつは、水はパテント化(特許を取得すること)できないから、新薬や新化粧品の販売に結びつかないためである。研究に必要な資金を新薬や新化粧品の販売によって回収できないので、資金を提供するスポンサーが存在しないのである。

だが、とても珍しいことが起こった。イスラエルにあるキャプラン医学センターのロニ・ウルフ医師が、長期にわたり水分を摂取したときの肌への効果を調べるための文献調査を進めるうちに、ドイツの科学者によって、この問題について書かれた論文をひとつだけ見つけたのである(*3)。だが、結果は矛盾するものであった。

(*3)Williams S. et al. Effect of fluid intake on skin physiology: distinct differences between drinking mineral water and tap water. Int J Cosmet Sci. 2007 Apr; 29(2):131-8. PMID: 18489334

肌を守るのは飲水ではなく保湿剤を塗ること

論文によると、被験者にミネラルウォーターか水道水を4週間飲んでもらい、両グループをくらべた。結果は、ミネラルウォーターを飲んだグループは肌密度が低下していたが、水道水を飲んだグループは肌密度が上昇していた(*4)

しかし、どちらのタイプの水を飲んだかにかかわらず、肌のシワや滑らかさに差はなかった。これは、脱水が肌に影響を及ぼさないという意味ではない。水分が少なすぎれば、肌に悪いことは確かであるが、だからといって、平均以上に水を飲めば改善されるという意味でもない。食べ物が不足すると栄養失調になることから、その反対に、過食すれば健康にいいという意味でもない、のと同じ理屈である。

皮膚科医でもあるウィスコンシン大学医学部のアップル・ボドマー教授は、こういう。「水をガブ飲みしてもあなたの肌はみずみずしくならないし、きれいにもなりません。どんなタイプの水でも摂取すれば、皮膚細胞を膨らますことができますが、それでも皮膚細胞の内側に潤いを与えることはできません」。

では、肌を守るための最善の策は何か。ボドマー教授は、シャワーの後に保湿剤を塗るとよい、とアドバイスする。ローションが肌の表面にある水を保持し、この水が肌を乾燥から守ってくれるという。さらに同教授は、こうもアドバイスする。「美しさは体の内側から生じます。水分をしっかり摂る、適度な強度のエクササイズを日課とする、よい睡眠を確保する、よい友人を持つ、趣味の時間を持つ、人生を楽しむ。これらのことを日常的に実行すれば、人生は大きく変わるでしょう」。

(*4)「肌密度」は、素肌のキメ細やかさと細胞の厚みの度合いを意味する。「肌密度」の高い肌とは、ふっくらと厚みのある細胞がひとつひとつ密に整然と並んで、弾力がある。

乳液を手に取る
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