「健康寿命」は「平均寿命」より10年早い
図表1は厚労省のデータです。「平均寿命」は女性87歳、男性81歳。しかし、自立した生活が送れる「健康寿命」はそれより約10年早いのです。男性72歳、女性74歳です。
確かに、厳密には「健康寿命」は即「法的な死」ではありません。しかし、本人が意思表明できないと、財産的にはほぼ同じで、財産凍結されてしまいます。
昔は認知症になってから亡くなるまでの期間は短いものでした。だから、平均寿命と健康寿命の差はさほど問題にはなりませんでした。しかし、延命医療が進み、介護期間は長期化しました。すると、この間の介護費用の負担が増大して、社会問題になっています。
これと並行して、核家族化が進み、特に“妻”の意識も変化しました。相続人の権利意識も高まり、相続で受ける財産に目が向きます。生前に家族が預金を引き出すことに対して、他の相続人が「勝手に使い込んだ!」と争いになるため、銀行ももめ事に巻き込まれたくないため、引き出しに厳しくなりました。
住まなくなった「実家」も同様で、司法書士も本人の売る意思確認義務があるのですが、認知症ではそれも叶わず、不動産屋さんも法務局も受け付けませんから、売れずに廃墟化が進み、全国的に空き家が問題化しました。
世の中では相続で空き家が増えていると認識していますが、本当の原因は生前に起きているのです。
認知症だけではない「法的な死」
認知症は平穏な生活のなかでも高確率で発症します。厚労省の推計によると、2025年には700万人。なんと65歳以上の高齢者5人に1人の確率、つまり20%です。
このため、本書では「法的な死」の代表例を認知症としてお話ししていきますが、「法的な死」の原因は認知症だけではありません。
交通事故や脳卒中などで意識不明になることもあります。当然、そうなると本人による法的な行為はできませんから、これらを合計すると「法的な死」になる確率はもっと高いのです。
まさに、人生の末期に起こる社会問題ですらあります。