「子どもに迷惑をかけたくない」は叶わない
実家を売却しないとすれば、貸すのか? 取り壊すのか? 新たな経営をするのか? 売る以上に大変な意思決定が必要ですが、認知症ではそれもできません。家族側に余程の貯えがあれば別ですが、通常はそんな余裕はありません。
だから、それは、どこの家庭でも起こりうる、今そこにある危機なのです。
親が貸家・アパート住まいなら、これらの問題はないでしょうが、逆に、実家を売って入居一時金を工面するという手段もないことになります。
親の自宅に子どもが同居しているときは、自宅は売れません。この場合、施設への入居一時金の工面が別途必要となり大変です。
多くの親が口癖のように「子どもに迷惑をかけたくない」と言っているはずなのに。何も対策をしないまま親の判断能力が失われると、子どもにはこんな重い負担が待っています。そのしわ寄せは親自身にも及びます。「まだ生きているんです」、なのに自分の財産がままならず。サービスのよい施設にも入れません。
年間60万円かかる「成年後見制度」で解決するか
どうしても認知症になった親の預金を引き出したい、実家を売りたいときには、どうするか? そのときに、金融機関や不動産屋さんが勧めるのは「成年後見制度」です。
これに基づいて「法定後見人」(弁護士等)を付けるのです。もちろん、費用がかかります。最初に数十万円。月々3~6万円。しかも認知症の親が亡くなるまで。仮に月額5万なら、年間60万円、10年で600万円! これは途中で止めることはできません。
しかし、これでも結果としては、大金はおろせず、多くは自宅も売れないのです。
後見人は認知症になった方を徹底して守り抜きます。だから財産が減らないように、死ぬまでに使い切らないように、最低限の額しか引き出しを認めてくれません。
令和4年冬のNHKの『クローズアップ現代』で成年後見人制度の欠陥を報じていました。認知症になった親の唯一の楽しみであった「温泉に入りたい」も叶えられないのです。「温泉に行くのであれば認知症が治る診断書を持ってきなさい」との情けのない対応に唖然としていました。
令和4年9月に国連は「日本の制度は差別的である」として廃止を勧告するに至っているのです。
自宅の売却については、老人ホームの退去など、万が一のときに戻る所がなくなるので、これには否定的です。特に、預金があるときは、成年後見人の管理のもとで、その預金を使い切らないと自宅売却を認めてくれないのです。成年後見人のケチケチ支出で、預金を使い切るには、数年どころか10~20年かかります。その間、親に不自由な思いをさせて、預金を使い切る前に親は亡くなってしまいます。まさにアリ地獄です。
しかし、認知症になってしまったら、これを選択するしかなくなるのです。だから、繰り返しますが、認知症になる前に対策をしなければならないのです。