相澤のような上司ならば男性の筆者も部下になりたい。なぜ女性ばかりにする必要があるのだろうか。
「もちろん、男性がいても女性の活躍は物理的には可能ですが、歴史的に女性に役割付与がしにくい業界なのです」と人事部の小田文子は説明する。そして、今回の取り組みは、「保険会社の最大の経営資源である人材を最大限活用するために、女性にも活躍の場を与えよ」という経営陣からの指示なのだという。
損保ジャパンは以前から「新たな働き方の推進」に取り組んでおり、2010年には「総合職」「業務職(一般職)」というコース別人事制度を廃止し、総合系職員として一本化した。ただし、国内外を問わずに転勤する「グローバル職」と一定地域内で働く「エリア職」に分け直したところ、前者の9割以上が男性、後者の9割以上が女性という結果になった。
ちなみに小田は数少ないグローバル職女性の一人。スパルタ式の営業研修の中で唯一の女性参加者だったこともあると笑いながら振り返る。ならば、いっそのこと正社員すべてを「グローバル職」に転換すればいいと思うが、大半の女性社員がそれを希望しないのだろう。
リクルートワークス研究所の大久保幸夫も、その問題点を指摘する。
「頭数では女性が多いのに、男性が支配権を持つ会社は多い。その典型が金融です。これまで、一般職には余計なことはしなくてもいいと言って押さえつけてきたのに、時代が変わって総合職化しようとしている。大量にいる女性の活性化に頭を痛める企業は多いのです」
社長の櫻田謙悟からは次のような訓示が「女性ばかりの営業店」に伝えられているという。
「がんばらなくてもいい。代理店やお客様に対して、今までどおりの接し方をしてみて、どんな効果が表れるのか見たい」
櫻田の優しい人柄が垣間見えるような言葉である。しかし、そんな生ぬるいことでいいのかと不安にもなる。小田は、女性社員を成長させるためには「場の提供」が必要なのだと補足する。
「男性でも若手社員に役割を与えることは、他社でもやっていますよね。それと同じです。権限を付与すると、それに応じてやりがいも感じて成長も早まります。もちろん、(失敗する)リスクはありますが、どんどん積極的にチャレンジさせようというのが当社の風土です」
権限付与が成長につながるのは賛成できる。相澤をはじめとする新宿新都心支社のメンバーは溌剌としていた。しかし、彼女たちは男性がいても前向きに働くはずだ。「男性がいると萎縮してしまうので女性ばかりにする」という発想の妥当性は最後まで納得できなかった。
(文中敬称略)
大久保幸夫
1961年生まれ。一橋大学経済学部卒。99年同研究所を設立。2010年より内閣府参与を兼任。専門は人材マネジメント、労働政策、キャリア論。