妻に言えない……1000万円消滅
山本さんは学生時代に法律職を目指していたこともあり、ついのめり込んで勉強してしまう“悪い癖”があるとか。
「本を読むだけでなく、投資セミナーに通い、情報屋から耳寄り情報を仕入れたことも。当時、1日の睡眠時間は3時間ほどでしたね。ネット取引だけでなく、何かしら情報が入ると窓口取引もしました」
証券会社は残高がトータルで一定額以上あれば、その何倍もの取引を行える信用取引を顧客に認めている。条件をクリアした山本さんは、現物株と信用取引の双方で利益を出したり、損失を出したりしていたが、その後、大きな事件が相次いだ。
「06年のライブドア事件で、手持ちの大半の銘柄が下落した。冷却期間を置いて回復を待とうと、しばらく投資を控えることにしました。ところが、08年9月のリーマン・ショック。結局、12月にすべて撤退することにしました」
約1000万円が消滅。ただ、山本さんは投資じたいを否定する気はないという。
「高い授業料でしたが、いい勉強になりました。株価の推移は会社の業績だけでなく、世の中の景気や政治動向など、いろいろな要素が関係する。それを考えるのは楽しいことです。タラ・レバは禁物ですが、事件がなければまだ投資を続けていたと思いますね」
ただ、今もこの損失を妻に言い出せずにいる。
「遺産が入るとわかったとき、妻が『住宅ローンを前倒しで返済するのに使いたい』と言ってきたのですが、断りました。まだどこかの銀行口座にあると思っているんじゃないですか(苦笑)」
山本、斉藤両氏とも、ふとしたきっかけで投資を始め、一時は利益を出したものの、大きな損失を出して撤退した。しかし無防備とはいえ、リスクを取った決断を誰も笑うことはできない。それでも落とし穴は誰にでも平等に、口を開けて待っているのだ。
※すべて雑誌掲載当時
(小原孝博=撮影)