発達障害の人にはどんな共通点があるのか。認知神経科学者の井手正和さんは、脳の働きの違いから、感覚過敏や感覚鈍磨といった感覚の問題を抱えやすいと指摘する。たとえば『爪を噛む』といった行動は、発達障害が原因のおそれがあるという。井手さんの著書『発達障害の人には世界がどう見えているのか』(SB新書)からお届けする――。

※本稿は、井手正和『発達障害の人には世界がどう見えるのか』(SB新書)の一部を再編集したものです。

発達障害の人が抱える「感覚」の苦しみ

感覚過敏、感覚鈍麻といった感覚の問題を抱えるASD者(自閉スペクトラム症)は、日常生活においてさまざまな苦しみ・悩みを抱えています。

その苦しみの多くは、定型発達者からすれば理解するのが難しいものです。

例えば、「いつもと違った道を通るのが怖い」という感覚は、本人の自覚を伴う苦しみですが、「気になることがあると、そちらへの関心が強くなってしまう」という感覚は本人に自覚がないままに、結果として人間関係の悪化を招き、苦しみにつながってしまいます。

ここでは、感覚の問題から生じるASD者の苦しみについて解説します。

路上で考える女性
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです

感覚の問題とは、

・感覚過敏……周囲の音や匂い、味覚、触覚など外部からの刺激が過剰に感じられ、激しい苦痛を伴って不快に感じられる状態
・感覚鈍麻……痛み、気温、体調不良などに関して鈍感である状態

の2つがあり、感覚過敏か感覚鈍麻かのどちらか一方ではなく、感覚過敏と感覚鈍麻が同居するASD者もいることをお伝えしてきました。

また、定型発達者がある程度の“リミッター”をかけて情報処理を行っているのに対し、ASD者が“リミッター”をかけずに情報処理を行っている可能性があり、その要因は「脳の特性」によると考えられる――そのために取り込む刺激が過剰になる――ことも述べました。

では、この「感覚の問題」によって、日常生活などでどのような苦しみを感じているのでしょうか?

これまで研究に協力してくれたASD者の生の声を通して、ASD者への理解をより深めたいと思います。