「爪を噛む」行動は感覚鈍麻が関係している

「爪を噛む」という行動をとるASD者もいます。この行動には、自己調整の生理的メカニズムや感覚鈍麻が関係している可能性があります。ここでは、感覚鈍麻という観点からこの行動を考えてみたいと思います。

感覚鈍麻の状態を定型発達者の方に理解していただくのに、「虫歯治療で歯茎に局部麻酔を打った」「長い時間正座していたら足が痺れた」というケースを想定してもらうとわかりやすいかもしれません。

こういったとき、自分の身体でありながら、輪郭がぼんやりとしてわかりにくいといった違和感が生じませんか? そして、鈍感になっている部位(麻酔の効いている頬や痺れている足)を、自分の身体として確認するためにさすってみたくなりませんか?

ASD者の「爪を噛む」という行動は、感覚が鈍い指先に大きな刺激を与えて、身体の感覚を確認する行動だと推測できます。

爪をいじる人
写真=iStock.com/mapo
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感覚鈍麻に悩むASD者の場合、定型発達者であれば「痛くて仕方ない」というケガを負っていても気づけないことがあります。

感覚過敏と感覚鈍麻が同居しているASD者の場合、感覚過敏に比べて、感覚鈍麻に基づく行動に周囲がなかなか気づけない面があります。「もしかしたら感覚過敏と感覚鈍麻が同居しているのかもしれない」という前提を持つことも重要です。

なお、感覚鈍麻ですが、「外部からの刺激を受け取りにくい脳の特性がある。だから情報感度が鈍い」という理由だけでは、必ずしも説明できないかもしれません。

「外部からの刺激を過剰に受け取ってしまう脳の特性がある。過剰な刺激に圧倒され、処理しきれない状況から無意識に自身を守る手段として、敢えて環境にある刺激を極端にシャットアウトしている(一見、刺激に反応していないので鈍麻に見える)」と考える見方もあり得ます。

このあたりの感覚については、子どもの頃にASDと診断されたコロラド州立大学の動物学教授テンプル・グランディンさんが、著書などを通じて、当事者としての感覚を具体的に語ってくれています。

物や障害物によくぶつかってしまう

「物理的距離が近くなりやすい」というのも、ASD者に見られる傾向の1つです。ASD者は、自分の身体の境界に関する感覚が不明瞭であるため、普段の生活の中で、物体に接触してしまう頻度が高い傾向にあります。

例えば、障害物競走のような課題に取り組んでもらう実験では、ASD者は、定型発達者に比べてより高い頻度で障害物に接触したというデータがあります。

ではここで、距離に関する感覚についてより詳しく解説します。