※本稿は、東浦亮典『東急百年 私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
7年間で武蔵小杉駅の利用者は10万人増
以前から注目の街だった「武蔵小杉駅」については前著『私鉄3.0』でも触れましたが、引き続きタワーマンションが建設され、生産年齢人口や子供が増えて、駅前商業施設も活況を呈しているところなどに、大きな傾向の変化はありません。
JR東日本と東急電鉄の武蔵小杉駅の乗降人員推移をみてみると、2011年からコロナ前の2018年までの7年間で、約39万人から約49万人と約10万人も増えました。朝の通勤時間帯には、駅の入場規制を行うなど、大混雑が報道などでも話題になるほどでしたが、コロナの影響で、2021年には約22万人と半分以下に減りました。コロナが落ち着く中で、また少しずつ混雑が戻ってくるでしょう。
この10年間だけでも武蔵小杉駅周辺でタワーマンションが7本も竣工、販売されたわけですから、いかに勢いのある街であるかが分かります。
地元住民からは「もうこれ以上タワーマンションはいらない」という意見も聞かれますが、現在も新しいタワーマンション建設は続いています。
かつては京浜工業地帯の一角を担う工場地域
2019年10月、日本各地に被害をもたらした台風19号の影響で、武蔵小杉駅前のタワーマンションでは地下の電気系統が浸水し、停電や断水などの被害にあいました。現在では人気の街になりましたが、かつて京浜工業地帯の一角を担う一大工場地域でした。
武蔵小杉が現在のように一気に発展したのは、こうした工場群が事業所統合や海外移転などによりなくなったことで、駅周辺に大規模な空地ができたからです。川崎市は武蔵小杉を市内の第三都心と位置付けて、再開発を進めてきました。都心は云うまでもなく経済と工業の中心である川崎駅周辺、副都心は住宅地として栄える溝口/新百合ヶ丘です。
これらの工場跡地をフックに大きなまちづくり構想を練り上げ、規制緩和してタワーマンションを開発誘導した効果が表れました。