いまなぜ「リスキリング」なのか
時代の変化が激しくなる中で、働く個人も学び、変化し続けることが求められています。「学び直し」「リカレント教育」など、これまでも生涯にわたる学習の重要性は長らく叫ばれてきましたが、2022年、それらに代わって社会人の学び領域の一大キーワードに躍り出たのが「リスキリング」です。
この言葉が注目されるようになったきっかけは2018年、世界経済フォーラムの総会、通称ダボス会議で提唱された「リスキル革命」ですが、遅れること数年、日本でもブームがやってきました。22年10月には、岸田首相の所信表明演説において、5年間で1兆円をリスキリングの支援に投じることを表明し、大きな話題になりました。Googleの検索トレンドでも検索が跳ね上がり、経営や人事業界だけではなく、世間的にも耳目が集まることになりました。
その背景の1つは「DX」(デジタル・トランスフォーメーション)の潮流です。デジタルを活用したビジネス・モデルの転換を意味する「DX」は、2010年代中盤からすでにバズワード化していましたが、2020年からの新型コロナウイルスの猛威によって一気に不可逆的な流れとなりました。この分野における日本の遅れが一気に危機感をもって認識され、企業では、旧来のIT部門とは異なる「DX推進部」が矢継ぎ早に作られました。リスキリングが、以前からある「リカレント教育」や「生涯学習」といった言葉よりも、「デジタル」や「ジョブチェンジ」と結び付けられることが多いことも、技術進歩とビジネス・モデルの変革によって既存の職業が大きく影響されていくという前提があります。
ここに、経営に大きな影響を与えるもう一つの世界的な流れが加わります。「人的資本経営」の潮流です。「人的資本」とは、個人が持っている知識やスキル・能力や資質などを、付加価値を生み出すための資本とみなすコンセプトで、もともと経済学における基本概念です。今、企業の「人的資本」を重要視し、その領域への投資を企業の外へと開示していくことが求められ、多くの企業の経営課題として浮上しています。