※本稿は、松永正訓『患者が知らない開業医の本音』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
開業初日にやって来た診断が難しい女の子
開業した年はいろいろなことに驚かされた。今でもときどき驚くことはあるが、やはり1年目はいろいろな意味で無知だったために驚くことが本当に多かった。
ぼくの友人の開業医は、開業した初日の1番目の患者が髄膜炎だったらしい。それも全身状態が悪化している子どもだった。その先生は髄膜炎の診断をすぐにつけて救急車を要請して、患者を大学病院へ送ったという。
それはかなり痺れる話だ。まずは、普通の風邪の子から来てくれて、流れがうまく作れた段階で難しい患者にきて欲しいというのが開業医の本音である。
ぼくの開業初日、1番目ではなかったけれど、午前中にちょっと診断のつかない子が受診した。小学1年の女の子だった。症状は鼻水・咳といった感冒症状、それからやや長引く発熱があった。診察をしてみれば特に大きな所見はないのだけれど、問題は彼女の全身に出ている発疹だった。発疹は赤いようなやや茶色いような、大きさが揃っていなくて、なんとなく「汚い」印象だった。
症状が気にかかり知り合いの医師に電話で相談
こういう発疹を以前に見た記憶があったが、それがいつのことで、どういう診断だったのか思い出せない。風邪に伴って皮疹が出ることはよくあるし、特に夏風邪はそういう傾向があるので、何かちゃんとした病名のつくものではないかもしれない。
ただ、お母さんが非常に心配していることと、その子が熱で消耗していることが気になった。もう少し様子を見るか、それとも大学病院に紹介状を書くか? そのときぼくは、自分が大学病院で働いていたときに、感染症のことでいつもお世話になっていた千葉市立青葉病院の小児科の部長先生の存在を思い出した。女の子と母親には少し待ってもらい、ぼくは院長室に引っ込んで電話をかけてみた。部長先生は気安くぼくの相談に乗ってくれた。
「うーん、少し経過を見ていいような気がするけど……ただ、千葉市では今、麻疹(はしか)の患者の報告があるんだよね」