新型コロナはカゼと同じになったのか?
オミクロン株の出現以降、「もはや新型コロナはカゼと同じ」という言説が多く出てきた。もういいかげん「新型コロナ」と呼ぶのもやめて、カゼと同じ扱いにしようよ、と言うのである。ネットでは「コロナに罹ったけど、診療所に行っても“カゼ薬”をもらっただけ。すぐに治ったし、もうカゼでいいじゃん」という実際に罹った方の体験談も見られる。
たしかに一理ある。私も7月に罹ったが、38度の熱がたった一日出ただけで、あとはノドの痛みも大したことなく、咳もひどくならなかった。“カゼ薬”はもちろん、解熱剤すら一錠も服用せず、まさに自然治癒。就業できない期間の大半は家でのんびりと過ごしていた。
そういう人がほとんどならば、たしかにもはや「カゼ」でいいかもしれない。しかし、本当にそうだろうか。私ごとで恐縮だが、その7月、けっきょくわが家では同居家族全員が感染した。可能なかぎり動線と空間を遮断し、換気も徹底していたにもかかわらず、である。そして私以外の家族、高校生の息子は強い咽頭痛のため数日経口摂取がままならず、私と同年代の妻は、発熱期間こそ3日程度だったが、自宅療養期間が終わる頃から咳がひどくなり始め、一時は喋るたびに咳が止まらず、最終的に咳が治ったのは感染から1カ月後のことだった。
そもそも「カゼ」という病名は存在しない
もちろん、身近なそんなに少ない症例数では何も医学的に説得力のある議論になどならないことは重々理解しているが、日々、発熱外来で新型コロナ感染者の治療にあたっていると、まさにわが家の状況と同様、同じ家庭内感染であっても、症状の軽重、症状持続期間の長短が人それぞれに多様であることを実感する。これは、新型コロナ感染者の診療に直接従事している医療者同士であれば、共有できる事実であろう。
そこで「新型コロナはカゼと同じ」という言説について改めて考えてみたいのだが、その前に、まず「カゼとは何か?」というところから改めて認識を整理しておくべきであろう。何を今さら、などと言うなかれ。「カゼとは何か?」という問いには、実は医師でもなかなか明確に答えられないのだ。
そもそも「カゼ」は病名ではない。正確には「風邪症候群」といって、鼻汁や咳、喉の痛みといった症状の集まりに、扱いやすく名前をつけたようなものだ。病名をつけるならば「普通感冒」「急性上気道炎」とされることもある。