「人の人生の最後を守るのはゴールキーパーと同じ」

木和田君は2018年に故郷の福山市で小学校時代からの友人と一緒に遺品整理の会社を立ち上げました。お客さんに「ありがとう」と言ってもらえることにやりがいを感じていて「人の人生の最後のところを守るのはゴールキーパーと同じです」とあり、「15年間続けたサッカーに恩返しがしたいので、指導者のライセンスを取りました」とも書いてありました。(筆者注:木和田選手は2020年、Jリーグ加盟を目指す島根県浜田市のベルガロッソ浜田に入団)読んでいるうちに目頭が熱くなりました。

入会から5年、103人の同期の中には日本代表になった選手も、海外に移籍した選手もいます。でも木和田君のように、サッカーの経験を別のフィールドで生かしている人もいるのです。

――村井さんがJリーグと関わりを持つようになったきっかけは、選手のセカンドキャリア開発でした。

【村井】子供の頃から人生をかけて夢を追った人たちが、サッカー選手としてのキャリアを終えた後も、充実した仕事人生を送れるようにしたい。そういう仕組みが作れれば、若者たちはある意味、安心して夢を追いかけることができます。その思いは今も変わりません。

ブラジルを圧倒したドイツの育成はすごかった

【村井】実は「5年後の自分への手紙」を思いついた背景に一冊の本があります。リクルートの仲間が書いた本で、『21世紀への手紙 ポストカプセル328万通のはるかな旅』(千葉望、文春新書)というタイトルです。

1985年のつくば万博の時に郵政省が実施した企画で、20世紀に書いた手紙が16年後の21世紀が始まるその日に届くというものでした。ある女性は手紙の差出人を見て「心臓が止まりそうになった」と書いています。それは何年か前に亡くなった娘からの手紙でした。投函の5年後に亡くなったお父さんから家族に届いた手紙もありました。

人生の中にはいろんな悲しみや苦しさがありますが、一定の時間を置くことで、その時には感じられなかったドラマが生まれることもある。時間というのは残酷だけれど、いろんなことを癒やしてくれる優しい存在でもある、とつくづく感じました。

2021年7月16日の色紙
撮影=奥谷仁

――人を育てる時にも時間の要素が必要だと。

【村井】2014年のW杯ブラジル大会で、優勝の期待を背負った開催国ブラジルを7対1で破り、圧倒的な強さで優勝したのがドイツでした。

「ドイツで何が起きているのだろう」とその育成方法を調べたのです。そうしたら、育成年代のプログラムに数学や地学が含まれているという映像を観たのです。「補習のために勉強もしておけ」というのではありません。より高い次元でサッカーをするためには数学や地学から得られる要素が必要だと言うのです。