母親は見張り役になり、実行犯は娘
【事件1:娘をタテにした万引き家族】(GメンAの場合)
親子3人があるスーパーマーケットにやって来ました。母親は30代、娘は中学生くらいでしょうか。もうひとりは母親の息子かと思っていたら、後で聞いたところによると娘の彼氏だったということです。
3人はパッと見、仲のいい親子のように見えました。親子でなくても、仲のいい母娘と娘の彼氏というのはよくある組み合わせです。しかし3人はスーパーに入って不審な行動に出ます。それぞれが店内の別々の箇所を物色して、そこで見つけた商品を1台のカートにどんどん入れていくのです。
やがて彼氏の姿が見えなくなりました。先に駐車場に行って、車の準備をするのです。母と娘も別々に行動します。母親は店の入口のところに座り、追跡者がいないか見張りをしているようでした。そして中学生の娘がいっぱいになったカートを押し、レジを通らず店を出た――その瞬間、私は彼女を呼び止めました。
ここで驚いたのは、「ちょっと話を聞かせてください」と母親にも声を掛けたところ、母親が「私は何も知らない。これは娘が勝手にやったんだ」と言い張ったことです。その時私は、この犯罪が非常に悪質で計画的に行われたことに気付きました。3人は最初から役割分担をして、この万引きに臨んでいたのです。つまり母が監視役、娘が実行犯、彼氏が運転手という分担です。
娘は捕まり、警察に連行されていった
ここでもっとも罪深いのは、もちろん母親です。言ってしまえば、母親はもしも娘が捕まってしまった場合、最初からシラを切ろうと思っていたのです。自分は知らないとトボけて、娘ひとりに罪を押し付けようとしていたのです。
それは娘がまだ中学生であるということと関係しています。日本の法律では14歳以下は罪に問われません。母親はそのことを知っているからこそ、娘に実行犯をやらせようとしたのです。母親が娘をタテにして、しかも実の娘に犯罪を犯させようとしているやり切れなさ……。
中学生のその娘は、スーパー裏の控室でどうしていいかわからずずっと泣いていました。初犯でこんな大胆な手口はできないでしょうから、きっともう何カ所も他でやっていたのだと思います。
その後、警察が来て彼女は連行されました。万引きGメンの役割は警察に引き渡すまでなので、その後この家族がどうなったかはわかりません。一体どんな背景があって、どういう命令系統で犯罪が行われたかも不明です……。