※本稿は、日南休実『万引きGメンの憂鬱』(ザメディアジョン)の一部を再編集したものです。
万引きGメンはどんな気持ちで仕事をしているのか
万引きGメンは不思議な仕事です。
万引き犯を捕まえるのが仕事なので、多くの犯人を捕まえた日にはよく仕事をしたことになります。ただそれは世の中にたくさんの犯罪者がいることになり、あまり気分のいいものではありません。
それとは逆に、一日中いろんな店を回っても1人の万引き犯にも出会わない日があります。それは地域が平和ということで、喜ぶべきことですが、それだと万引き犯を捕まえる仕事はできていないことになり、これはこれで後味のいいものではありません。そういう時は「私はここにいる意味があるのだろうか?」と自分のアイデンティティまで危うくなるGメンもいると聞きます。
万引きGメンについては、どんな気持ちで仕事をしているのかよく尋ねられることがあります。頻繁に聞かれるのは、彼ら彼女たちは釣りや狩猟の感覚で、これぞと決めたターゲットを狙い通り捕獲することに快感を感じているのか? ――ということです。
Gメンには通常ノルマというものはありません(万引きGメンにノルマが課せられる世の中は相当怖いです)。確かに確保した件数を手帳に書いている人はいますが、それは「今日は何人捕まえたぞ!」という達成感というより、備忘録として付けている感じです。
万引きは、商品を自分の懐に入れても店外に出るまでは犯罪にならない、また一点のみの現認では声を掛けられないこともあるのですが、その際にGメンが感じるであろう悔しさ、はがゆさは、私には手に取るようにわかります。
しかしそれは釣れそうな魚を逃した悔しさではなく、あくまでも正義感に基づくものです。目の前で行われている悪事を見逃さざるをえない悔しさ、確かに事件は起こっているのにそれを摘発できないもどかしさ……。
私が見る限り、いい万引きGメンの根底には正義感があります。許せないものは許せない、悪事を働いている人がいると見て見ぬフリができない――そういう気持ちがGメンを突き動かし、犯人に立ち向かわせるのだと思います。