英政府がEVやPHVの一般購入者向けに補助金を導入したのは2011年のことだ。以降、段階的に補助金は削減されてきたが、EVの普及は順調に進んできた。そのため政府は、一般購入者向けの補助金はその役割を終えたと結論付け、今後は充電インフラの拡充や商用車のEVシフトのサポートに集中する意向を持っているようだ。

しかしこの政府の決定に、SMMTは異議を唱えた。6月14日付の声明でSMMTは、政府が一般購入者向けの補助金を打ち切ったことが、政府が描く温室効果ガスの排出削減目標にユーザーやメーカーをコミットさせるうえで、誤ったメッセージを与えるとした。SMMTは補助金が打ち切りとなればEV普及は進まないと考えているようだ。

世界的な国産ブランドがなく、失うものがない

ところで、英国はなぜ、EVシフトの先導を務めることにまい進するのか。

まず、歴史的な側面があると考えられる。18世紀の後半に世界に先駆けて産業革命が生じた英国では、首都ロンドンを中心に深刻な環境汚染を経験した。こうした経緯から国民の間で高い環境意識が育まれ、気候変動対策の重要性が理解されるようになったのだろう。

もちろん、覇権主義的な側面もあると考えられる。EUも同様だが、ヨーロッパ勢は気候変動対策の議論をリードし、その分野での国際的な主導権を確立したいと考えている。ジョンソン元首相が昨年のCOP26に注力したことも、その証左だ。EUと袂を分かち、国際的な指導力の回復を目指していることも、英国を気候変動対策に駆り立てる。

ビッグベンが見えるロンドンの景色
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革新を好む国民性も、EVシフトにマッチしているのかもしれない。ほかにもさまざまな理由が考えられるが、英国には純粋な意味での国産自動車メーカーが存在しないことも、大きな理由になっているのではないだろうか。英国にはさまざまなブランドの車があり、いずれも世界的に知名度が高いが、そのほとんどが外資系メーカーの傘下にある。

例えばロールスロイスやMINIはドイツのBMWの傘下にあるし、ベントレーはフォルクスワーゲンの傘下にある。またジャガーやランドローバーはインドのタタ・モータースの傘下にあり、MGは中国の上海汽車の傘下である。民族資本のメーカーとしては、高級車のアストンマーチンやスポーツカーのマクラーレン、モーガンがあるくらいだ。

極言すれば、英国には日本のトヨタや日産、ホンダがなく、ドイツのフォルクスワーゲンやBMW、アウディがない。本来なら守るべきナショナルブランドは、そのほとんどがすでに外資の傘下にあるわけだ。輸出産業としての役割も限定的であるため、地域の雇用さえ守られるなら、EVだろうとなんだろうと構わないというのが本音かもしれない。