各国の事情を無視した一律目標は非現実的

既存のガソリンやディーゼルを主とする自動車生産に優位性があり、自動車が重要な輸出産業である日本やドイツが、国としてZEV声明への署名を見送るのは当然のことだ。最大の自動車消費国であり生産国でもある米国と中国も、EVへの完全シフトは現実的ではないため、国としてはZEV声明への署名を見送っている。しかしいずれの国も、気候変動対策そのものに消極的なわけではなく、EVの生産および登録は着実に増えてきている。

理想の実現のために高い目標を掲げること自体、悪いことではない。繰り返しとなるが、ZEV声明は、先進国が2035年までに、世界全体で2040年までに新車供給をEVに代表されるZEVに限定することを目指すものだ。とはいえ各国の自動車市場の構造は、所得水準や法制度、歴史的経緯などから多様性に富んでいるため、一律で目標を達成することなどまず不可能だ。

銀座の交差点を通過する車
写真=iStock.com/yongyuan
※写真はイメージです

英国もそれは承知なところだろう。それはそうとして、議論をリードすることに価値を見いだしたというのが本当のところではないか。一種のソフトパワーの行使であり、英国が得意としてきた外交戦術の延長にも位置付けられる。それに英国の自動車産業が、守るべき輸出産業としての位置付けになく、日本やドイツのように失うものがないことも、この戦術を可能にしているはずだ。

EVシフトそのものは世界的なメガトレンドだ。とはいえ、それが一方向に進むかどうか定かではなく、路線に修正が入る可能性は高い。世界の市場を見据えた自動車産業を抱える日本の場合、そうした展開を十分に視野に入れる必要がある。英国とは事情が異なる日本が国としてZEV声明から一定の距離を置き、動向を注視するスタンスは、至極、妥当な判断といえよう。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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