刺激を与えるほど脳が育つわけではない
一般にわたしたちは、睡眠よりも活動のほうが大切だと思い込んでいます。
たとえその人が何歳であっても、活動こそが、さらには活動だけが、人間を賢くし、生産性を高め、人生を謳歌できるようにするというのです。
ここ10年ほど、とりわけ赤ちゃんの成長中の脳が正常に発達するには、常に刺激を与えなければならないといわれてきました。結果、多くの人々が、赤ちゃんにさまざまな色を見せたり、音楽を聞かせたり、おもちゃが大量に必要なのだと思うようになりました。そして、親になると、赤ちゃんにもっといろいろな活動をさせなければというプレッシャーにかられ、さまざまなことを試みるように。
ピカピカ光ったり、グルグルまわったり、ヒューヒュー音のするおもちゃや文字や絵が描かれたフラッシュカードを与えたかと思えば、親子のための音楽やヨガなどのクラスを受講したり、一緒にテレビの教育番組やDVDを見たりと、知育のための高価なおもちゃや学習環境を与えつづけています。
これは、刺激を与えれば与えるほど、赤ちゃんの脳が発達しやすくなると信じてやまないからです。
実はそれらが原因で赤ちゃんがよい睡眠を確保できなくなっているとは、まったく想像もしていないことでしょう。知育だけでなく睡眠の環境も整えてあげましょう。
これから詳しく見ていきますが、赤ちゃんの脳を活性化させるのは睡眠なのです。
なぜ「刺激が脳を発達させる」と言われてきたのか
刺激が、赤ちゃんの脳の発達、つまりは認知力の発達を高めるという説がどうやって証明されたのか見てみましょう。
その多くはネズミを使った実験によってでした。
1960年代まで一般的に、ネズミで実験を行う場合、ひとつのケージに3匹ずつ入れ、おもちゃなどネズミが興味を持ちそうなものは与えていませんでしたが、その後、ある研究者がネズミの友だちを2~3匹と車輪やはしごなどを5~6個加えたところ、ネズミの脳の神経細胞がより複雑に結合することがわかったのです。これによって、脳がまわりの環境に応じて変化することがはじめて証明されました。
しかし、確かに脳を成長させつづけるには挑戦や変化(=刺激)が必要ですが、この発見を過大評価するべきではありません。
思い返してみてください。ネズミが与えられたのは、数匹の友だちとみんなで使ういくつかのおもちゃだけ。別にネズミをディズニーランドのような場所に連れていったわけではありません。
赤ちゃんにいくつかのカラフルで安全なおもちゃを与え、抱っこしたり、一緒に遊んだり、話しかけたり、歌ってあげたりして刺激を与えることはとても大切です。
しかし、秩序立てた活動をしたり、知育玩具を与えることが、赤ちゃんの認知力を高め、将来、学校の成績もよくするとはかぎりません。実のところ刺激が多すぎると逆効果になる可能性もあります。