失業なき円滑な労働移動で賃金が上がる保障はない
解雇されたら転職先がすぐに見つかるのが理想だが、日本の転職市場は他の国に比べて脆弱だ。
過去1年間に雇用されていた人のうち、過去11カ月以内に現在(転職先)の雇用者の下で働き始めた人の割合を示す「労働移動の円滑度」の国際比較では、イギリスやアメリカは10%であるが、日本は半分の5%にすぎない〔「内閣官房新しい資本主義実現本部事務局資料(2022年11月)」〕。
労働移動の少ない日本でアメリカのように解雇自由にすれば、需給ギャップが生じ、失業者が溢れる事態も想定されるだろう。解雇自由にする前に「失業なき労働移動」を可能になるセーフティーネットの構築が不可欠だろう。
そもそも人材の流動化が進めば、新浪氏が「成長産業への失業なき円滑な労働移動を進めれば、賃金上昇もセットで実現できる」と述べるように賃金が上がる保障があるわけではない。
もちろんその前提としてスキル教育が重要だと指摘しているが。
ただし、人材流動化大国のアメリカで、上位10%の高所得層の所得シェアは1979年以降増加し、それ以外の層の所得シェアが減少しているという格差大国でもある〔独立系シンクタンク経済政策研究所(EPI:The Economic Policy Institute)〕。
岸田文雄首相は、数年間で1兆円のリスキリングのための予算措置を行い「人材移動の円滑化」を図ると宣言している。その一環として解雇規制の緩和に手をつけようとすると、思わぬ副作用が発生する可能性も高いだろう。