老いた親と兄を私が支えなければならなくなるのか
成人してから佐田さんは、きょうだい児の会に参加したり、SNSなどで同じきょうだい児たちと知り合ったりすることができ、誰にも打ち明けられなかった胸の内を少しずつ明かすことができるようになる。
分かり合える仲間の存在や、幼い頃のつらい記憶と向き合うことが功を奏したのか、佐田さんのトラウマやうつ病は快方に向かっているようだ。
「両親は今のところ健康に過ごしていますが、父母どちらかが大きく体調を崩した時、私が親と兄の両方を支えなければならなくなることをとても不安に思います。両親は、将来的には私に面倒をかけないために、兄を『グループホームへ入れるつもり』と言っていますが、入所待ちの人が多いため、見通しは不透明です」
きょうだい児がいない場合、障害者は、両親が亡くなる前に後見人を立てて、財産などの管理をしてもらいながらグループホームに入居するのが一般的だ。一方、きょうだい児がいる場合は、障害の重さによっても選択肢は異なってくるが、これに、「在宅で面倒をみる」「後見人の役割をきょうだい児が担う」という2つの選択肢が追加される。
「両親は成年後見人も検討していますが、第三者に頼むとなると報酬が高額になるのと、私に任せることの是非について迷っていました。私は将来も実家へは帰るつもりはなく、関東で暮らしたいこと、兄の後見人については請け負っても良いが、自分が家庭を持った場合は、成年後見人に関すること以外は、兄にどこまで関われるかは明言できないということを伝えています」
きょうだい児もヤングケアラーも、問題は地続きだ。家族に世話や介助が必要な人員がいれば、そこにリソースが割かれ、家族にゆとりがなくなるのは仕方がないことかもしれない。
だが、佐田さんのような副次的な問題は、家庭の中の大人が想像力を働かせ、タブーを作らないように意識して努めることで、きょうだい児にトラウマを抱えさせることやうつ病にさせてしまうような事態は防げたのではないだろうか。
今や、共働きが当たり前となり、時間的にも金銭的にも余裕のない親が少なくない。介護の必要な老親を抱える家庭も増えている。子供に“お手伝い”の範囲を超えて、介護や子育てをサポートさせている家庭は、「子供らしくいられる時間」や「子供らしくいられる場所」を奪っていないか、子供と一度腹を割って話し合ってみてほしい。