タブーは家庭を歪ませる

筆者は、家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つがそろうと考えている。

佐田家の場合は、「兄のための佐田さん、佐田さんのための3人目」と出産計画したという佐田さんの両親に「短絡的思考」が見られたように感じる。近年注目されつつあるヤングケアラー問題は、子供が年齢的に見合わない重い責任や負担を負うことで、本当なら享受できたはずの、「子供としての時間」と引き換えに、家事や家族の世話をしていることが問題とされている。佐田さんはまさに、「子供らしくいられる時間」や「子供らしくいられる場所」が得られないままに成長。その反動か、大人になってしばらくした今、身体的・精神的不調に苦しめられている。

虫眼鏡で虫を探している少女
写真=iStock.com/Hakase_
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幼い頃から佐田さんは「寂しい」「もっとかまってほしい」ということを、両親にも学校の先生にも、友だちにも言えずに生きてきた。そして、兄の存在を「煙たい」「恥ずかしい」と思っていることを、「家族の一員としてあってはならないこと」だと自分の中に押しとどめ、蓋をし、さも何とも思っていないかのように平然と振る舞い続けた。

「兄に対して私が恥を感じていること、その思いを両親にも誰にも訴えることをしなかったのは、周囲の空気を読んでいたからです。私にとって、兄に対して文句を言うことは、解決しようのない問題に駄々をこねるようなものであり、両親が大事にするものへの貶めでもあります。つまり、兄に対して私が恥を感じていること、その思いを両親に訴え出ることは、家庭の中で私の立場を危うくすることでした」

佐田さんは、家族で唯一兄に対して「羞恥心」を感じ、本来ならこの世で最も安らげる場所、ありのままの自分を受け入れてもらえるはずの場所・家庭の中で孤立していたのだ。

「両親も祖父母も、みんな兄を大事にしていたので、その兄を私が心の中で憎んでいることは、あってはならないことだと思っていましたし、悟られないようにしていました。でも当時、もしも誰かに打ち明けることができたとしたら、兄の様子や状況を第三者にすべて理解してもらうことはとても難しいので、同じ時間を共にして、兄と私の両方を知っている大人・両親に話を聞いてもらいたかったです。でも、残念ながら、両親が私から兄への不満を引き出してくれたことは、一度もありませんでした」