ゼレンスキー大統領に残されている2つの選択肢

では“戦後”について、プーチン大統領はどう考えているのか。

現在、ウクライナのゼレンスキー政権に要求しているのは、次の3項目です。

・ウクライナの中立化と非武装化。
・クリミア半島におけるロシアの主権の承認。
・現政権における責任者の処罰。

これは降伏文書にサインせよと言うに等しい内容ですから、ゼレンスキー政権は到底のめないでしょう。

2022年3月4日、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が原子力発電所を攻撃・占領した後、モスクワの敵に対して、さらに厳しい制裁を要求した。
写真=AFP/時事通信フォト/UKRAINIAN PRESIDENCY PRESS OFFICE
2022年3月4日、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が原子力発電所を攻撃・占領した後、モスクワの敵に対して、さらに厳しい制裁を要求した。

そうなると、ゼレンスキー大統領に残されている選択肢は2つです。

1つ目は、海外への亡命です。徹底抗戦を唱えてきたゼレンスキー大統領としては、ロシアに捕まることは避けたい。そしてロシアも内心はゼレンスキー大統領を捕まえたくない。「現政権における責任者の処罰」を要求している以上、逮捕した場合は裁判にかけなくてはならないからです。そうなれば釈放せよという運動が国際的に起こりますから、「早くキエフから逃げてくれ」というのが、ロシアの本音だと思います。イギリスのジョンソン首相は2月24日に「必要があればウクライナの亡命政府を受け入れる」と表明していますし、国境を接しているポーランドも反ロシアなので受け入れてくれるでしょう。

2つ目は、首都をキエフから西部のリビウに移し、リビウに拠点国家を作る。リビウを中心とするガリツィア地方は、1945年までポーランド領でした。オーストリア=ハンガリー帝国時代は多言語政策を行っていたので、ウクライナ語の教育も行われていました。現在も、ウクライナ語を流暢にしゃべるのは西部の人たちです。宗教も、ロシアの東方正教会ではなく、カトリックです。歴史的に反共で、ウクライナナショナリズムが強い地域ですから、ガリツィア地方ではロシアへの抵抗運動が長く続く可能性があります。