抵当権が抹消されていない家も典型例のひとつで、築30年未満の家屋に関しては、住宅ローンが完済されておらず、売るに売れない状態のものもあると思われる。90年代の住宅ローンの金利は今よりもずっと高く、物件の価格相場も今とは大きく異なるため、今日の中古物件価格の相場では完済が難しい場合もあるはずだ。

無理のある宅地開発の産物

これらの限界分譲地の空き家を見るたびに、もったいない、という当たり前の感想とともに、つくづくこうした住宅地の持続性のなさを痛感させられる。

空き家となる事情は様々あろうが、根本的に持続性のある住宅ではなかったということだ。(千葉県八街市砂)
筆者撮影
空き家となる事情は様々あろうが、根本的に持続性のある住宅ではなかったということだ。(千葉県八街市砂)

限界分譲地は農村部の限界集落とは異なり、宅地造成されたのは、多くがせいぜい50年ほど前。もともと70年代半ばころまでに投機目的で分譲された土地が、しばらく塩漬けにされ、80年代のバブル期の地価高騰時にようやく実需が発生し始めたところが多い。

農村部の限界集落や衰退した地方都市の市街地のように、人口減や経済の後退によって空き家が発生したわけではなく、最初から無理のある宅地開発が行われ、早々に破綻した産物だ。市場から退場せざるをえない空き家が発生するのはむしろ必然であった。

無理があったのは開発だけではない。利便性を度外視したような投機型分譲地に住宅を取得した人の多くは、高額の住宅ローンに耐えうるだけの経済的余力を持ち合わせていない。

2010年、千葉県においては、戸建物件の競売件数が全国1位の2398件に達したが(千葉地裁管轄・全国では6035件)、その中でも特に集中していたのが、八街市・山武市・富里市などの千葉県北東部、成田空港周辺の自治体であった(朝日新聞2010年8月14日朝刊)。いずれも限界分譲地が多く、筆者が調査を続けている自治体である。

限界分譲地はその地価の安さから、バブル期以降、高騰した都市部の住宅市場から置き去りにされた人のための廉価な住宅市場という位置づけがなされてきたが、価格の安さばかりを訴求力にした住宅販売というものは、やはり何かしらの歪みを生むものなのだろう。

筆者撮影
長年放置されているため、家屋だけでなく、電柱にまでツルが絡んでしまっている。(千葉県山武市横田)

今回の記事で紹介している空き家は、いずれも筆者が限界分譲地の調査を始めた約5年前にすでに空き家となっていたものばかりだ。