顧客満足度は高いのに成長できない企業に欠けていること

まずNPSは高いがEGRは低いプレーヤー(グラフ右下)は、ファンケルや資生堂と同等あるいは高い顧客ロイヤルティを収益成長に有効につなげられていないことを意味する。

推奨者により多くの自社製品を認知・購入してもらう活動や、家族や知人への推奨を喚起するための仕掛け、また日本においては多くの業界で高い割合を占める批判者の離反抑止において、高EGR企業をベンチマークしながら改善する余地がある。

逆に、NPSは低いがEGRが高いプレーヤー(グラフ左上)は、顧客を囲い込み生涯価値を高められている一方で、将来の成長の先行指標となる顧客ロイヤルティが脆弱ぜいじゃくであり、直近は実現できているビジネス成長が今後も継続するかどうかについて疑問符がつくことを意味している。こうした企業にとっては、NPSの改善に注力することが、将来にわたっても成長を持続するための前提条件となる。

フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ著『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』(プレジデント社)
フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ著『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』(プレジデント社)

なお、EGRの計測を正確に行うためには、自社の既存顧客の購入額が昨年からどう変化したのか、また新規顧客のうちどの程度が既存顧客からの推奨によってもたらされたのかを社内データや購入時アンケートなどを通して組み立てていく必要がある。

ただ、業界によってはこうしたデータの把握がそもそも難しい場合もあるだろう。そのような場合は、データの信頼性や精度は下がるものの、本稿で実施したような外部調査パネルを活用した消費者調査を行うというのが次善の策となる。

次善の策とはいえ、こうした消費者調査を把握して、業界リーダーをベンチマークしながら優先的に改善すべきレバーを見つけていくといったことにも活用できる。

NPSをモラルの羅針盤にする

NPSは顧客ロイヤルティを計測するという極めて有用なツールであり、分析から多くの示唆を得ることができる。

だが、真に持続的かつ自律的な顧客起点の企業文化を築くためには、それだけでは足りない。挑戦しがいのあるパーパスによって経営層から最前線の従業員までを幅広く巻き込みながら、顧客の生の声に向き合って組織全体で学び、優れた顧客体験を日々実践することを通して初めて、社会に欠かせない存在として深く根を下ろした企業文化の創造と、他社には模倣できない組織能力の進化を実現できる。

これは一朝一夕では成しがたい大仕事である。本稿が顧客の人生を豊かにすることを通して自社のビジネスを成長させるという、素晴らしい実践を始めるきっかけとなり、大きな改革を導くコンパスとなることを願ってやまない。

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