コロナ禍で、経営危機に直面した企業と価値を高めた企業は、どこに違いがあったのか。経営コンサルタントのフレッド・ライクヘルド氏は「想定外の危機に強いのは、明確な存在意義を持つ組織だ。なかでも『顧客の生活を豊かにすること』を1番に掲げることが成功する上で重要だが、実践できる経営者は全体の1割に過ぎない」という――。

※本稿は、フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ著『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

自動車を修理する人
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コロナ禍で業界全体の売上高は半減したが…

2009年、スティーブ・グリムショーがCEOとしてキャリバー・コリジョンに入社したとき、この自動車修理チェーンは全米のわずか2州、68店舗で営業していたにすぎなかった。ところが、2020年初め頃までには、全米1200カ所以上で店舗を構えるアメリカの圧倒的な業界リーダーにまで成長した。売上高も2億8400万ドルから50億ドル近くまで爆発的な拡大を遂げている。

そして2020年3月、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(感染症の世界的拡大)というブラック・スワンが急襲する。自動車は車庫とドライブウエー(私有車道)に押しやられ、車の衝突事故は急減した。業界全体の売上高は55%も落ち込み、競合他社の多くは負債の支払い能力を維持するために営業店を閉鎖した。

だが、キャリバーはこの逆風に真っ向から立ち向かうことにした。売上高が大幅に減少していたにもかかわらず、全店舗を開店して危機を乗り越える方法を見つけ出したのである。

スティーブはこのときの選択について、こう説明する。「キャリバーは、利益第一ではありません。人々を最優先しているのです」。

業界の低迷を受けて店舗を閉じるのではなく、3億ドルのクレジット・ライン(訳注:銀行の融資枠)の一部を引き出しながら、サービスの質を引き上げたのである。喜びを与える顧客の数を増やすために、店舗内の余った設備を活用することにしたのだ。

その結果、同社のNPSは前代未聞の水準にまで急騰し、業界標準をはるかに上回ることになった。そして、この事実に気づいた保険会社は、事故の際に同社を紹介する頻度を上げた。

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