成長を続ける企業は、どこが違うのか。経営コンサルタントのフレッド・ライクヘルド氏は「重要なのは、顧客の人生を豊かにするというパーパスを持つこと。だが、それだけで十分とは言えない。顧客愛を自社の成長に繋げるために2つの指標を意識する必要がある」という――。

※本稿は、フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ著『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

渋谷スクランブル交差点
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NPSを補完する「プロモーター獲得成長率」

NPSが誕生してからおよそ20年。NPSの活用における技術的な側面では多種多様な進歩があった。昨今では、顧客接点のデジタル化やデータの活用可能性の広がりに伴い、これまで想像もできなかったような飛躍を遂げようとしている。その一方で、NPSに対する部分的な理解や自己流の解釈、さまざまな現実(企業内での優先順位、古くからの企業文化、権限、予算の制約など)に直面する中で、NPSの最大パワーを活用しきれず、顧客の人生を豊かにするというミッションを果たせていない企業も多い。

そこで、NPSを補完する新たなコンセプトとして「プロモーター獲得成長率(Earned Gross Rate:EGR)」をつくった。既存顧客からの継続的な売上と、既存顧客の紹介による新規顧客の購買を合わせた売上額が、自社の売上全体のどの程度の割合を占めているかを示すものである。

広告など新規顧客獲得のためのマーケティング活動に依存せず、自社の優れた顧客体験を通して得られた顧客ロイヤルティによって、どの程度実際の財務的成果につながっているかを計測するというわけだ。

継続率+1%で企業価値は15%上昇する

プロモーター獲得成長率は、「売上継続率(Net Revenue Retention:NRR=昨年の既存顧客から得られた今年の売上高を、昨年の売上総額で割った比率)」と「プロモーター獲得型新規顧客売上(Earned New Customer Revenue:ENCR=既存顧客の紹介により獲得した新規顧客からの今年の売上高を、昨年の売上総額で割った比率)」から構成されている。この2つの構成要素がわかれば、プロモーター獲得成長率は計算できる。

NRRは、SaaS業界を筆頭に今日ではいくつかの業界で実際に使われている実践的な統計値だ。SaaS企業のバリュエーション(株価評価)に対する影響を見ると、NRRが成長の質(と持続性)を測る指標としていかに有効かがわかる。SaaS企業を専門とするベンチャーキャピタル、SaaSキャピタルは、NRRが1%上昇すると、企業価値がその後5年間で15%上昇する事実を見出した。

ENCRは、獲得した新規顧客グループからの売上高を算出した数値である。NPSプリズム(※)がこの要素の定量化を始めたところ、競合企業間に大きな差が見つかった。たとえば、クレジットカード企業のトップ12社の中では、主に推奨または紹介で新規顧客になった者の割合が、低い企業では8%、高い企業では31%と散らばりを見せたのである。当座預金と普通預金では、アメリカのトップ銀行は新規顧客の53%を既存顧客の推奨または紹介で得ている。

※筆者註:信頼に足るNPSベンチマークの情報を求める切実な市場ニーズに応えるために、2019年にベインが設立したデータ事業であり、企業がカスタマージャーニーに沿って革新的なカスタマーエクスペリエンスを生み出すことができるようにするための、実用的なインサイト発見を支援するプラットフォーム。