会計上の利益だけに注目するのはやめたほうがいい

ある高成長銀行は、ENCR90%という驚異的な数値を達成した。獲得した新規顧客に大きなばらつきがあることは、経営者にとって、この数値の定量化(そして管理)を始めることが、質の高い成長を実現するうえでいかに重要であるかを示している。

これにはかなりの努力とイノベーションが必要だが、真剣に追求する良い機会だろう。さもないと、企業は愛すべき顧客の価値を十分に知ることができず、販促活動や攻撃的な販売戦術を通じて成長を買うための過剰投資を続け、既存顧客を喜ばすことにちっとも金をつぎ込まない事態に陥ってしまう。

顧客ベースの会計を使えば、企業はプロモーター獲得成長の構成要素を測定し、ロイヤルティに基づく成長エンジンをリアルタイムデータで管理できる。継続的な投資と予算編成の決定を支え、投資家への報告内容を強化するために顧客ベースの会計情報を用いる──説明責任を果たすうえでこの点を重視することで、経営者は時代遅れの会計基準に基づいてタップダンスを踊るのをやめ、顧客愛のリズムに乗って動き出せるだろう。

投資家も取締役も、顧客ベースの会計の結果の検証を推し進めるべきだ。会計上の利益という範囲の狭い指標に注目することは破壊的である。というのも、経常利益は顧客を愛するのではなく、顧客につけ込み、悪用することによってあまりにも簡単に膨らますことができるからだ。

日本にも存在する顧客愛の「勝ち組」

「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』の日本語版の出版に合わせて、実際に日本企業におけるNPSとプロモーター獲得成長率(EGR)の関係がどのようになっているのか、またそこから得られる示唆が何かを考察するために、化粧品業界を例に簡易な消費者調査を実施してみた。

なお、各社のパフォーマンスを同じ土俵で比較するために、「闘うべきフィールド」の設定として、顧客と直接やりとりをする関係性が築かれている自社チャネルでのオンライン販売に絞って分析を行った。

横軸にNPS、縦軸にEGRをとり、各社をポジショニングしたところ、NPSとEGRの両方が業界内で相対的に高いプレーヤー(グラフ右上のファンケルと資生堂)、NPSは高いがEGRは低いプレーヤー(グラフ右下)、逆にNPSは低いがEGRが高いプレーヤー(グラフ左上)、両方低いプレーヤー(グラフ左下)の4つのタイプに分かれた(図表1)。

当然のことながら、目指すべきは高い顧客ロイヤルティを生み出して収益成長にもつなげているグラフ右上のファンケルと資生堂のポジションである。

では、それ以外のエリアにいるプレーヤーにとって、このグラフは何を意味しているのだろうか?