家で脳トレよりも外へ出かけよう

認知症とは、「認知機能が著しく低下した状態」とも言えます。認知機能とは、「物事を認識し理解して判断する総合的な機能」です。自転車に乗れるようになるためのいちばんたしかな方法は、自転車に乗ることです。認知機能を維持するための有効な方法は、認知する機会を多く持ち続けることでしょう。

「外に出ること」は、認知症を予防する効果があると言われています。なぜなら、外に出ると屋内よりも認知する機会が増えるからです。たとえば、①「車が来た」と認識し、②「このまま歩いては危ない」と理解して、③「立ち止まる」と判断する。まさに【認知=認識→理解→判断】です。だから認知症を予防したければ、家の中で脳トレをするよりも外に出なさいというわけです。一理ある気がします。

原川大介『わたしが、認知症になったら』(BOW BOOKS)
原川大介『わたしが、認知症になったら』(BOW BOOKS)

そういう意味では、現代社会は、認知症になる可能性が高まる社会だと言えます。自動化やAIの活用などにより、日常生活において、人が物事を認知する機会は減っているからです。たとえば、トイレに入ると自動的に便座が上がり、用を済ますと勝手に洗浄されるものもあります。

以前であれば、酔っぱらって帰った夜中でも、①トイレに入ったが「便座が上がっていない」と認識し、②「このまま用を足したら、便座に尿が付き、あとで娘に叱られる」と理解して、③「便座を上げてから用を足し、レバーをひねって水を流して、叱られないために、また便座を元に戻しておこう」と判断する必要がありました。「あえて先進技術を取り入れずに、昔ながらの不便な生活をすることが、認知症を予防する」なんてこともあるかもしれません。

一方、就労年齢の高齢化は、認知症予防の観点からもプラスの効果が期待できます。仕事は【認知=認識→理解→判断】の連続だからです。

認知症で辛い思いをすることの予防法

また、認知症自体の予防だけではなく、「認知症になったときに辛い思いをすること」を予防する視点も必要です。たとえば、「自分が認知症になっても、妻に優しくしてもらえるように、いまから妻に優しくしておく」とか「認知症になって自分の希望を伝えられなくなったときに備えて、自分の希望を書いておく」などです。

そういえば、地域住民に向けた認知症講座で、「認知症予防のためには、①身体を動かすこと、②心が動き感動すること、③頭を使うことが有効です」とお伝えしたところ、「じゃあ恋をすればいいんだね。恋をすれば頭も心も腰(身体)も動くから!」とハツラツと言った女性がいました。この方は、つい先日、認知症と診断されたばかりだということでした。隣にいた家族は照れ臭そうでしたが、本人を咎めはせず、会場は温かな笑いに包まれました。

この方は、認知症は防げませんでしたが、認知症になったときに辛い思いをすることの予防は、成功したと言えそうです。

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