※本稿は、原川大介『わたしが、認知症になったら』(BOW BOOKS)の一部を再編集したものです。
服の着方がわからない、ティッシュを食べる…
日本神経学会によると、「認知症とは、一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態で、それが、意識障害のないときに見られる(一時的ではなく継続している)」と定義されています。
要は、「後天的な脳の障害によって、いままでできていたことの一部ができなくなったり、わかっていたことの一部がわからなくなり、著しい生活のしづらさが生じている状態」です。
具体的な症状としては記憶障害が有名ですが、「料理が作れない」「服の着方がわからない」といった遂行機能(実行機能)障害や、「人の顔を識別できない」とか場所や時間の感覚がわからなくなる見当識障害という症状も段階的に表れます。また、「お花やティッシュを食べる」とか「被害的な思い込み」などといった行動・心理症状が見られる場合もあります。
ひどい酔っ払いも「トイレ以外でおしっこをしてしまう」(場所の見当識障害)とか「記憶がなくなる」(記憶障害)ことがありますが、一時的であるため認知症とは言いません。
昨日の夕食が思い出せないのは「もの忘れ」
認知症の多くで記憶障害が見られますが、認知症でなくても、人は加齢とともに「もの忘れ」が表れます。「何かを探しに2階に来たけど、何を探しに来たのかを忘れてしまった」などという経験は若い人でもあるでしょう。
この二つの違いは何でしょう? 加齢に伴う「もの忘れ」では体験の一部を忘れるのに対し、認知症による記憶障害は、体験のすべてを忘れてしまうと言われています。
たとえば、加齢に伴う「もの忘れ」では、昨日の食事のメニューを思い出せなかったりしますが、認知症による記憶障害は、食事をしたこと自体の記憶がポッカリと抜け落ちてしまうのです。
ただし、「加齢に伴うもの忘れは自覚があるが、認知症の人は自覚がない」は、事実ではありません。
「ボケ、タスケテ……」これは、認知症と診断された男性が書いたものです。一人で暮らすご自宅に、何枚も何枚も書かれていました。夜中に一人で書いたのだと思います。「認知症の方は、自分が認知症だという自覚がない」は事実ではありません。