スタッフには「ベーシックインカム」を支給

「まめな」に賛同し、久比で活動する若者は多い。例えば、広島大学を休学して「まめな」で住み込みで働いている福島大悟(20)。2020年に高校生として「日経ソーシャルビジネスコンテスト」に参加し、学生部門賞を受賞した社会起業家だ。

スタッフ全員がいわゆる「ベーシックインカム」を支給されている。月額20万円に満たない給与でも困らない。家賃や食費、光熱費を払わなくてもいいからだ。

更科は「地域全体が元気になるためには多様性が重要で、そのためには若い人が必要です」と強調する。「まめなでは大学生3人が農家になると宣言しました。このうちの一人は今春に大学を卒業してすでに農業を始めています。サステイナブルな農業の研究・実践をリードしてくるのではないかと期待しています」

新事業は寺子屋に高齢者支援、訪問看護…

井戸端会議用のコミュニティースペース、多拠点生活者向けの宿泊施設・コワーキングスペース、遊び・学びの寺子屋施設「あいだす」、高齢者支援のための技術開発「エルダリーテック」、訪問看護事業「ナース&クラフト(N&C)」――。設立からわずか数年だというのに、「まめな」の活動領域はどんどん広がっている。

更科がとりわけ強い思い入れを抱いているのがN&Cだ。介護に直結するスタートアップであるからにほかならない。

「まめな」で立ち上がった訪問看護のスタートアップ「ナース&クラフト」の拠点。宿泊施設も備えている
筆者提供
「まめな」で立ち上がった訪問看護のスタートアップ「ナース&クラフト」の拠点。宿泊施設も備えている

N&C立ち上げに際し、更科は市の福祉保健課や医師会からは「やるのはいいですけれども人は集まりませんよ」と繰り返し警告された。看護師の職場は夜勤や長時間労働が常態化してブラックといわれているからだ。

そこで大胆な働き方改革を実践した。具体的には、兼業を前提にして看護師を募集したのである。すると、すぐに4人の看護師が集まった。このうち3人は東京を含め域外からの移住組だった。

地元でピンシャンコロリできる環境を整備

まめなで採用された看護師は長時間労働とは無縁だ。週末の2日に加えて平日の1日を介護以外の時間に充てられるからだ。

更科は言う。「平日の1日は好きなことをやってもらいます。畑仕事でもいいし趣味でもいい。あるいは1週間5日働く代わりに1日の労働時間を2時間減らす。とにかく介護と違うことをやってリフレッシュしてもらうことが狙いです」

介護士ではなく看護師を採用したのには訳がある。住民が地元でピンシャンコロリできる環境を提供するためである。

介護士と違い、看護師は医師の管理下で医療行為を認められ、看取りを行える。言い換えれば、看護師がそばにいれば、最期を迎えた住民は病院に行かずに、住み慣れた自宅で旅立てる。

ピンシャンコロリ――。ここに更科ビジョンの本質は集約されるのかもしれない。(文中敬称略)

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