「情報弱者である自覚」を持つべき

相手の話を潰して自分の話にすり替えると、会話が続かないだけでなく、相手からの評価は下がって距離は離れるばかりとなります。このケースを見るとよくわかりますが、悪魔の傾聴を使うためには聞き手が「情報弱者である自覚」と、「心の調整」が必要になってきます。

この40代男性は、情報弱者である自覚がありませんでした。年上の自分のほうが知っている、という傲慢な気持ちがあるので、求められていない情報提供をしてしまうわけです。このようなコミュニケーションをすると、孤立や孤独に突き進むことになってしまいかねません。この場面での正解を見てみましょう。

【女性】(20代)「実はアイドルが好きで。特に好きなのはハロプロですね。この前、Juice=Juiceのライブに行ってきたんです」

【男性】(40代)「Juice=Juiceってハロプロなんだね? 知らなかったよ」

【女性】(20代)「そうです。そうです。工藤由愛ちゃんって子がすごくよくて―」

どうでしょうか。この簡単なことができない人があまりにも多いのです。起点の会話が弾めば、話をどんどん引きだせる会話の発進の段階では、相手の話に寄り添うことがきわめて重要になってきます。相手が発言した単語を拾い、相づちを打つように短い質問を返します。慣れれば、本当に簡単なことです。

この場面では20代女性がハロプロやJuice=Juiceのことを話したいのは明確でした。相手が言っていることを質問で助けながら広げていくだけです。正直、相手からこのような自己開示がでてきただけで、会話はもう勝ちです。丁寧に「ピックアップ・クエスチョン」を実行すれば、ハロプロやJuice=Juiceが起点となって、彼女がどんな性格なのか、どんな恋愛をしてきたのか、現在どんな生活をしているのかと、プライベートにまで発展させることができます。

自分の話をしないだけで会話は好転していくのに…

起点の会話が弾めば、話を遮る、自分の話をするなど大きなミスをしない限り、どんどんと広がり、様々な情報を得ることができるのです。誰でも、話したいことを聞いてくれた相手、希望を叶えてくれた相手には好印象をもちます。

中村淳彦『悪魔の傾聴』(飛鳥新社)
中村淳彦『悪魔の傾聴』(飛鳥新社)

相手が同僚ならば社内の関係性は円滑になり、プライベートで異性相手ならその場の会話を楽しむだけでもいいし、LINEのIDを聞いたり、次になにか誘うもいいでしょう。様々な可能性が広がっていきます。人の話を聞くことで、知らない情報をインプットしながら人間関係は広がって、好転していくわけです。

筆者と同世代(団塊ジュニア男性)が失敗している事例をネタにしていますが、我々は上昇気流のなかで恵まれて育ち、年功序列が抜けきれていません。自分が年上からされてきたように、年下にはついつい上から目線で語ってしまいがちです。その結果、時代遅れでニーズのない自分語りをして、若者の話をちゃんと聞くことができていません。多くの場面で、せっかくの会話を自分の話で壊しているのです。

自分の話をしないだけで会話は好転するのに、ついいらないことを語ってしまう。それは本当にもったいないと、わかってもらえたでしょうか。

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