※本稿は、伊藤和磨『痛みが消えていく身体の使い「型」』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
椅子に長時間座っていることは健康リスクを高める
WHOは2011年、「座りすぎることによって、毎年200万件の死亡を引き起こしている」という声明を出しました。
昨今では、座りすぎの生活は、糖尿病、血栓症、心疾患、脳血管系障害、大腸がん、乳がん、腰痛や股関節痛などを罹患する確率を高めることがわかっています。
椅子に長時間座っていることが健康リスクにつながる理由は、具体的に次の通りです。
下半身の筋量は全身の約70%を占めており、血液を全身に循環させる第2の心臓と呼ばれています。鼠径部(太ももの付け根)には大腿動脈と大腿静脈、鼠径リンパ節、大腿神経が通っているのですが、座面の低い椅子に座るとこの部位が圧迫されて、血流とリンパの循環が著しく阻害されてしまいます(骨盤が後傾して猫背にもなる)。
これが常態化すると膝下のむくみや冷え症が悪化するだけでなく、心臓への負担が増加して、循環器の機能障害が生じやすくなるのです。
エコノミー症候群は職場でも起きる
椅子に5分間座っているだけで血流の速度は約25%低下し、30分間座り続けると70%も低下することがわかっています。この状態が習慣化されると、糖と中性脂肪を分解する酵素の働きが低下し、血液がドロドロになってしまいます。放っておくと高血糖症、高インスリン血症、高脂血症をはじめ、血栓症のリスクが高まります。
希にではありますが、座りすぎによって下肢にできた血栓が、肺や心臓、脳に飛んで重大な問題に発展してしまうケースもあります。いわゆるエコノミークラス症候群です。その名称から、飛行機の中でだけ発生するトラブルと思われがちですが、自宅やオフィスでも起こり得るのです。
それを避けるためにも、腰痛症の予防も兼ねて、30分ごとに椅子から離れて立ち歩く癖をつけましょう。