ポイント②できるだけ座面を高くする

坐骨枝で座るためにもうひとつ重要なことは、できるだけ座面を高くして腰掛けることです。

デスクワークによるダメージを小さくするために、自宅やオフィスの椅子の座面を可能な限り上げ、腰掛けたときにお尻が膝よりも高くなるように調整することが大変重要です。座面を高くするほど、ちょっとヒンジするだけで、簡単に坐骨枝で着座することができるからです。

また、上半身をかがめる角度が小さく済むので、腰部と太ももへの負担が軽減されます。

さらに、座面が高いと自然と骨盤が立ち、理想的な姿勢をキープしやすくなります。椅子から立ち上がるときも非常に楽になります。

座るというより腰掛けるイメージ

座面が高い椅子だと座るというよりも腰掛けるという感じになります。座るから腰痛になるのであって、腰掛ければ腰痛になりにくいのです。

一方、座面が低い椅子の場合は、かなり上体をかがめないと坐骨枝で着座することができません。動作中に腰部と太ももにかかる負担も増大します。

座面が低いと猫背にもなりやすい
座面が低いと猫背にもなりやすい(写真=『痛みが消えていく身体のつかい「型」』より)

また、太ももが床と平行になるような椅子に座ると、おのずと骨盤が後傾して猫背になるだけでなく、椅子から立ち上がるときの太ももと腰部への負担が増します。

【座面の高さと座りやすさ】

もちろん椅子を高くすると机の選び方も変わってきます。座る位置が高いのに机が低いままだと、猫背になってFHP(頭部前方突出位)のリスクが高まります。

ポイント③椅子に深く腰掛けてはいけない

私たちは、子どもの頃から座面の奥に座るように指導されてきましたが、そのように座ると股関節はロックされ、骨盤が後傾して猫背になってしまいます。さらに太ももが座面に圧迫される面積が大きいため、太ももの裏側を通る血管や神経が圧迫され、お尻の痛みや坐骨神経痛、むくみ、冷え症の誘因となります。

一般的には椅子に深く座って、背もたれに背中を密着させている姿勢が良いと思われていますが、長時間あの状態を維持することはほぼ不可能です。

椅子メーカーのカタログにも、モデルが座面の奥に座って背もたれに背中を密着させている写真が載っていますが、あれも現実的ではありません。実際には、背もたれからの反作用で腰が前に押し出され、猫背になってしまうからです。

伊藤和磨『痛みが消えていく身体の使い「型」』(光文社新書)
伊藤和磨『痛みが消えていく身体の使い「型」』(光文社新書)

最適な着座姿勢をキープするためには、座面の前端に腰掛けることが必須条件といえます。座面の前端に座ることを「端座たんざ」と呼びます。

ヒンジして腰掛けたら、座面の前端から20cmくらいの位置に移動します。お尻が滑り落ちそうなくらいの位置に腰掛けると、骨盤を前傾させる力が働いて自然と立腰することができるのです。

端座すれば座面の高い椅子に腰掛けても、両足のかかとを床につける(グランディング)ことができます。さらに座面に圧迫されるお尻と太ももの面積が小さくなるので、下肢全体の血液循環を保つことができます。

ソファーや座面が柔らかい材質の椅子でも、端座して座面の端に腰掛けることで立腰できます。

また、着座の基本は端座なのですが、リラックスするときには座面の奥に座って休むようにしましょう。時々座る位置を変えることによって、身体の一部にダメージが蓄積することを防ぎます。なんとなく崩れてしまうのと、意識的に崩すのとではまったく違う結果になります。