1年のうち4分の3は仕事ができない漁師の現実

なんとしてでも認定を取らなければいけない。そこから萩大島の漁の現状について改めて調査に取りかかった。巻き網漁は萩で多く獲れるアジやサバには最適な漁法だが、いくつかの問題があることもわかった。

そのうちの1つは、1年のうち3カ月の禁漁期間があることだ。逆に言えば、漁ができるのは3月15日から12月15日までの270日間しかない。しかも、この決まりはおよそ80年前にできたものだった。気候変動により海水の温度が上昇しているため、魚の生息状態がまるで違っているのに、制度だけはそのままになっている。

さらに悪天候で波が高い日や、風が強い日も漁には出られない。特に巻き網漁では、複数の漁船が近距離で作業をする。日本海の荒波に煽られて、船と船が接触でもすれば大事故になりかねない。その結果、実質的に稼働できるのは年間80日にも満たないという。

長年の経験で天候を見極め、事故のリスクがあると判断すれば、その日の漁を中止する。それ自体は理解できるが、1年のうち4分の3は仕事ができないというのはどう考えても普通ではない。萩大島の漁師には、漁が休みになるとパチンコ店で日がな過ごしている者も多かった。これでは収入も当然、不安定になる。

これは私たちの新規事業においても、大きな問題になりそうだった。漁に出られなければ当然、自家出荷はできない。それでなくとも禁漁期間の3カ月間は、まったく商品を届けられないことになる。これではお客さまの信頼は得られない。漁ができなくても、魚を調達するルートを確保する必要があるわけだ。

立ちはだかったローカルルール

職業として漁をするためには漁協や漁連(漁業協同組合連合会)から許可を得る決まりになっている。これは全国どこでも共通だが、それと併せて県ごとの規制やルールがあり、萩大島のある山口県には他にはない独特のローカルルールがあった。

それは、一隻の漁船につき一漁期に一つの漁法しかできないというルールである。

本州の西の端にある山口県は広いエリアが海に接している。しかも、流れの激しい日本海と、穏やかな瀬戸内海という2つの異なる性格の海に接しているため、好漁場にも恵まれている。それゆえに古くから漁業が盛んで漁の許可を取っている漁船も多い。

漁師間の争いを少しでも減らすことを目的に定められたのが、一漁船一漁法という特殊なルールだった。

「なんで延縄はえなわ漁に出んの? 天気が悪くて巻き網漁ができないなら、一本釣りに出ればええやん」

不思議に思って長岡に尋ねてみたが、「そういう決まりなんじゃ」の一言で終わりだった。