「ルールだから」を疑え
漁獲高が圧倒的に今より多かったころなら、こうした互助会的ルールにもメリットはあったかもしれないが、今や漁業者は減る一方で存続の危機に瀕しているのだ。
巻き網漁が禁漁の季節でも、他の漁ができれば、それだけ漁に出られる人が増えるではないか。それなのに昔のルールが「ルールだから」という理由だけで存続している。知れば知るほど不可解な話ばかりだ。
ルールの存在よりも私にとって腹立たしかったのが、肝心の漁師たちが矛盾を感じていないことだった。時代に合わないなら変えるように働きかければいいじゃないか。なぜ、初めから「そういう決まり」の一言ですませてしまうのか。
実は、この一漁船一漁法については、われわれが県内の漁協を束ねる山口県漁業協同組合に直談判し続けたことで、後にルールが撤廃になった。撤廃といっても、正式にお触れが出たということではない。漁協がなにも言わなくなっただけなのだが、そうなるまでに3年以上の時間がかかった。
「タダの魚で収益を生む」誰もできなかった事業化プラン
さて、萩大島の漁師の現状を調べ、そこにある矛盾と、一方で大きな可能性を知った私は、1年をかけてようやく6次産業化事業の認定事業者になるための事業計画書を完成させた。
萩の漁業の特長を生かしつつ、現状の問題点をクリアできる最適解だと思った。その「萩大島船団丸」の6次産業化事業プランはこうだ。
2.それ以外のイサキやスズキなどの混獲魚を、「粋粋ボックス」という商品名で箱詰めして、注文した消費者に直接販売する。
3.粋粋ボックスで販売する混獲魚は、船の上で新鮮なうちに消費者の希望に応じて処理をする。
4.「船団丸ブランド」で販売する魚は市場に水揚げする魚とは区別し、徹底した品質管理や手当てを施す。
5.粋粋ボックスに詰めて直接販売する一部のアジやサバについても、市場に卸すものとは分けて温度などを管理することで商品価値を高め、ブランド力を付ける。
これが実現すれば、アジやサバについては今までと同じ収益を上げながら、これまでは市場に水揚げしても1箱1000円程度しか値段がつかなかったような混獲魚を、消費者の希望どおり処理することで、倍以上の価格で売ることができるはずだ。
つまり箱単位で投げ売りしていた混獲魚を1匹ずつ丁寧に扱うことで、少量でも大きな収益を得ることが可能になる、というわけだ。
萩大島船団丸、出航す
書き上げた事業計画書を長岡たちも喜んでくれた。
「わしらだけでは到底こんな立派なものは作れんかった」
「あんたに頼んで正解やった。本当によかった」
彼らの言葉に自信を得た私はさっそく、計画書を農林水産省に提出した。2011年3月のことだ。
その後、細かい書類の作り直しや、何度かの審査を経て、1年2カ月後にわれわれ萩大島船団丸の6次産業化事業計画は無事に国の認定事業者に選ばれたのである。しかも、山口地域農政局から申請した多くの事業者のなかで、水産分野の認定事業者第1号として。2012年5月26日のことだった。
こうして、偶然の出会いから、私たちは日本の漁業の常識を根底から覆す挑戦へと漕ぎ出したのだった。
(後編に続く)