姉を「盗っ人呼ばわり」した母
もっとも、当初はあまり深刻には考えていなかった。
何しろ母と姉は昔から仲良しだ。しょっちゅうつるんで出かけていたし、こういうことになる前も、姉はよくうちに遊びに来て、母の話し相手をしてくれていた。
何のかんの言っても2人は仲がいい、けんかしつつもうまくやっているのだろうと、楽観的に考えていた。
ところがある時、見過ごせない出来事が起きた。
母が姉に「財布がなくなった」と電話をかけてよこし、「あなたが盗んだ」と姉を盗っ人呼ばわりしたのだ。
姉はもちろん否定した。
「私は盗ってない!」
「絶対どこかにあるから、ちゃんと探してよ!」
と母に言い返した。
だが、母は
「あなたしかいない!」
「あなたが盗ったのよ!」
と容赦なく姉をなじった。
姉は深く傷つき、泣いていた
翌日、姉は母の所に駆けつけた。そしてすぐさま母の買い物袋の中にある財布を見つけ出し、「ここにあるじゃないの」と母に財布を差し出した。
でも、母は何食わぬ顔で「あら、そう」と言うだけで、謝りもしなければ言い返しもしない。
財布がないと騒いだことも、姉を盗っ人呼ばわりしたことも、すべて忘れてしまっているのだ。
姉からこの一件を聞かされた僕は、必死に姉を慰めた。そして謝罪した。
「姉さんは本当によくやってくれてる。感謝もしてる。それなのに、こんな目に遭わせて本当に申し訳ない。不愉快でたまらないなら、遠慮なく言ってくれよ。あとは僕と千賀子で何とかするから」
姉は泣いていた。深く傷ついていた。
それは盗っ人呼ばわりされたからだけではなく、理想的な良妻賢母だった母が壊れていくことに対する悲しみでもあった。