「ひどいこと」は病気が言わせているだけ
姉は優しい。本当に優しい。
弟の僕が言うのも何だが、姉は昔からとても優しく、面倒見もよかった。
年が10以上も離れていたせいか、姉は僕を無条件にかわいがり、僕も姉を心から慕っていた。
結局、僕はそんな姉の優しさに甘えていたのだ。
昔から変わらない、甘えん坊の末っ子長男のまま、面倒くさいことはすべて姉に押しつけて、必要以上の負担を強いてしまったのだ。
「でも、それはしょうがないよ。豊は生まれた時から我が家の大事な跡取り息子で、お母さんなんかずっと『豊が一番!』だったんだから。年がいってから生まれた子だったから、余計にかわいくてしょうがなかったんだろうね。
だってお母さん、私とけんかした時『もう何もしてあげないから!』って怒鳴ったら、『ああ、やってくれなくて結構。豊にやってもらうから』って言ったのよ。あれは本当にがっかりしちゃったなあ」
「えっ! あれだけ姉さんにいろいろやってもらいながら、母さんそんなこと言ってたの!?」
「そうよ。おまけにね、『豊は優しいのよ。私の言うことを何でも聞いてくれるの。千賀子さんだって、私には優しいんだから』って言うの。あんまりだと思わない?」
僕は絶句した。いくら何でもその言い草はひどい。
そんなことを言われたら、腹も立つし傷つきもする。
僕は、姉への配慮が足りなかったことを心底詫びつつ、2人の絆が切れてしまうのではないかと深く憂えた。
「姉さん、つらい思いをさせて本当にごめん。でも、これだけはわかってほしい。ひどいことを言うのは母さんの本心じゃない。病気がそう言わせてただけで、母さんは本当は姉さんが大好きで、頼りきっているんだよ」