食べたことを忘れ、時には粗相も
食事についても、姉は苦労させられていた。
姉もまた「食べた」「食べてない」で母ともめた。昼食を食べた直後に「お昼ごはんを食べる」と言い出し、「今食べたばかりでしょ」と止めても、「食べていない」の一点張りで、残り物やら何やらを口に運んでしまうのだ。
その挙句、母は下痢をすることもあった。
時には粗相したり、トイレを汚してしまうようなこともあった。
体によくないからと必死に止めても、母はおかまいなしに食べてしまう。
これには姉もほとほと参っていた。
その上、母は姉が帰るとすぐに連絡を入れるようになった。
母の世話を済ませ、自宅に戻ったばかりの姉に電話し、大した用事でもないのに「今すぐ伝えたいことがあるから来て」と呼び出すのである。
嫁の前では見栄を張ってしまう
このことを知った僕は、さすがに姉に申し訳ないと思い、
「姉さんをたびたび呼び出すのはやめてほしい」
と母に頼んだ。
通院も掃除もクリーニングも、同居する妻の千賀子に頼めばいい。
姉は嫁いだ人間で、本来母の世話をするのは僕らの役目だ。
だから、用事があるなら僕らに言ってくれてかまわない。
「何もかもお姉さん任せで心苦しい」と千賀子も恐縮している。
妻の顔も立ててやってほしいと、僕は母に説得を試みた。
だが、母は姉に頼るのをやめようとしなかった。説得した時は
「わかった」
「豊の言う通りだね」
「千賀子さんにお願いするようにする」
と言うのだが、翌日になるとまたすぐ姉を呼び出してしまう。
恐らく、これは物忘れのせいだけでなく、妻に対するプライドもあったのだろう。
妻とは仲良くやってはいたものの、母の中では「お嫁さんの前では常にしっかりした自分を見せていたい」という見栄があったように思う。
そのせいで、結果的に姉にしわ寄せがいくことになってしまったのである。