認知症の介護は家族にとって大きな負担となる。医師で医療ジャーナリストの森田豊さんは「認知症の介護では、『介護のキーパーソン』の負担が重くなりがちだ。周囲の人間はキーパーソンをできる限りサポートできる体制を作ってほしい」という――。
※本稿は、森田豊『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』(自由国民社)の一部を再編集したものです。
認知症の母に連日呼び出された姉
母の異変は、仲良し家族だった森田家を激しく揺さぶった。
僕も父も母の振る舞いに手を焼き、振り回され続けた。
だが、誰よりも振り回されたのは、父でも僕でもなく姉だった。
姉は日ごとにエスカレートする母のわがままを受け止め、何くれとなく世話を焼き、身を粉にして献身的に尽くし続けた。
例えば、母は不調を覚えると真っ先に姉に訴え、自分のもとに来るように言いつけた。
口腔外科や歯科だけでなく、「目が痛い」「膝が痛い」と言っては病院の予約を取り、その都度姉に付き添うよう連絡を入れた。
また、
「昼食や薬を用意してほしい」「風呂やトイレを掃除してほしい」
「クリーニング屋に行って来てほしい」「シーツや布団カバーを取り替えてほしい」
などと言っては、毎日のように姉を呼び出した。
「シーツは3日前に取り替えたばかりじゃない。毎日取り替える必要はないでしょ」
と言っても、きれい好きな母は「毎日替えたい」と言って聞き入れない。
結果、姉は毎日のように母のもとに通わされる羽目になった。