認知症の介護は家族にとって大きな負担となる。医師で医療ジャーナリストの森田豊さんは「認知症の介護では、『介護のキーパーソン』の負担が重くなりがちだ。周囲の人間はキーパーソンをできる限りサポートできる体制を作ってほしい」という――。

※本稿は、森田豊『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

認知症の母に、家族は振り回された…
写真=iStock.com/kasto80
認知症の母に、家族は振り回された…

認知症の母に連日呼び出された姉

母の異変は、仲良し家族だった森田家を激しく揺さぶった。

僕も父も母の振る舞いに手を焼き、振り回され続けた。

だが、誰よりも振り回されたのは、父でも僕でもなく姉だった。

姉は日ごとにエスカレートする母のわがままを受け止め、何くれとなく世話を焼き、身を粉にして献身的に尽くし続けた。

例えば、母は不調を覚えると真っ先に姉に訴え、自分のもとに来るように言いつけた。

口腔外科や歯科だけでなく、「目が痛い」「膝が痛い」と言っては病院の予約を取り、その都度姉に付き添うよう連絡を入れた。

また、

「昼食や薬を用意してほしい」「風呂やトイレを掃除してほしい」

「クリーニング屋に行って来てほしい」「シーツや布団カバーを取り替えてほしい」

などと言っては、毎日のように姉を呼び出した。

「シーツは3日前に取り替えたばかりじゃない。毎日取り替える必要はないでしょ」

と言っても、きれい好きな母は「毎日替えたい」と言って聞き入れない。

結果、姉は毎日のように母のもとに通わされる羽目になった。