データがつながれば世界は大きく変わる

――私たちの生活はどう変わっていくでしょうか。

それは、iPhoneがない時代に、iPhoneが広がった世界を予見するようなものですから、説明が難しいのですが、すべてのデータがつながる世界が来れば、生活は大きく変わることは間違いありません。

例えば、インドの経済学者であるアマルティア・センは、第2次世界大戦中に起こったベンガル大飢饉ききんについて「原因は食糧不足ではなく、人々が十分な食糧を入手する能力と資格が損なわれた結果だ」と述べています。

島田太郎、尾原和啓『スケールフリーネットワーク』(日経BP)
島田太郎、尾原和啓『スケールフリーネットワーク』(日経BP)

実は食糧はあったのに、人々がそれを知ることができなかったがために飢饉が起きたのだと。つまり、問題は食糧不足ではなく、情報の非対称性にあったわけです。何が、どこに、どれだけあるのか。人々がそういった情報を知ることができる世界であったなら、そんな悲劇は起こらなかったのではないでしょうか。

同じようなことは、半導体市場など、いまもさまざまな分野で起こっています。今までつながっていなかったデータがつながれば、ありとあらゆることに影響が出てくるでしょう。

ただ、中国で進んでいるOMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインの融合)のような取り組みは、日本ではデジタル化の遅れやプライバシーの問題もあって、すぐには実現しにくい状況です。この点は、今後取り組んでいかなければならない課題だと思っています。

一緒に考える“余地”を大事にする

――社員12万人を率いるリーダーとはどうあるべきだと考えていますか。

常に謙虚であること、誰とでも話すことを心がけています。僕はエンジニア出身ですから、あることが正しいかどうかを判断する際、「僕はこう思うけど君はどう思う?」という姿勢が大事かなと思っています。

正直、東芝には僕より頭のいい人はいくらでもいますから、それに対して自分の思いを「こうしろ」と言うのは違うだろうと。「社長が言っているからこうしろ」という考え方は嫌いですね。

島田太郎社長
撮影=遠藤素子

社長の仕事は、皆に「そうだよね」と思ってもらえるコンセプトを示すことです。ですから、普段から細かいことにはあまり言いたくありません。ビジョンでも「ソフトとハードを分離する」と掲げましたが、よく考えれば完全に分離できるわけがないんです。そうすると「どういうことですか」と社員からたくさん質問がくるので、それに一つひとつ答えていく。つまり、一緒に考えていく余地が生まれるのです。

こうしたやり取りには社内SNSも積極的に活用しています。ただ、これだけでは全社員にリーチできないので、全国の拠点を回るなど、現地に足を運ぶことも大切にしています。

6月に発表した長期ビジョンは外部向けのものであって、内部に伝えたいことは他にもたくさんあります。今は、そうした「裏・東芝戦略」を社員に伝えて回っているところです。伝えたい相手にリーチするためなら手段は選びません。これからも、リーダーとして自分にできることは何でもやっていくつもりです。(後編に続く)

(構成=辻村洋子)
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