――そうした考えに至ったのはいつ頃のことだったのでしょうか。

「CPS(サイバーフィジカルシステム)」のような考え方自体は、東芝に入社する前、まだシーメンスにいた頃から持っていました。異なる業界の人たちと話す中で、これからは実世界にあるデータをデジタル空間で分析することで価値を生み出す時代だと思うようになったんです。

その後に東芝のデジタル推進部門に入って、最初の3カ月でDXに関していろいろな案を作りました。その一環で当時の社長にCPSの構想を説明して、「東芝はプラットフォーマーになるんだ、今までと違う顧客層からお金をもらうんだ」と言ったら、とても面白がってくれたのです。

島田太郎社長
撮影=遠藤素子

さっそく具体化に向けて動き出すことになり、まずは社員からアイデアを募集しました。単に企画書をもらっても面白くありませんから、皆には「2030年の新聞を作るつもりで、実現したいことを「東芝が○○○○!」という見出しをつけて提出してほしい」と伝えました。そうすれば、結局何が言いたいのかということがひと目でわかりますから。

皆、やりたいことがたまっていたんでしょうね。20代の若手から事業部長、子会社の社長までさまざまな人が応募してくれて、結局88件の案が集まりました。社内にマグマのようにたまっていたものを、破裂させられたのかなと思っています。その後は、寄せられたアイデアをいくつかに絞って、事業にできるものは事業化していきました。多くは、当初コーポレートファンドの出資を受けて始まりましたが、収益化に成功し、すでに自走している事業もあります。また、スマートレシートifLinkといった既存事業も、これをきっかけに一気に拡大しました。

組織を動かす3ステップ

組織において自分の考えを実現するには、3ステップでのアプローチが大事だと思います。ステップ1では、皆にコンセプトやパターンを理解してもらいます。コンセプトを「プラットフォーム」などの言葉にして、従前使っていた「デジタル」などの言葉との違いも含めて社内に定着させる段階ですね。

ステップ2は「やってみる」。これが大事になります。失敗してもいいので、事業として皆に体験してもらうのです。実際、先ほどお話しした事業案募集の際には、利益率の高いビジネスモデルがいくつも動きました。そして、ステップ3ではそれをリアルに展開していくために、数字に盛り込みます。会社の中期計画などに、そのまま数字としてコミットするのです。

東芝のDXは、ここまで来て初めて始まったと思っています。その数字を積み上げたものが、長期ビジョンで示した「2030年度に向けたデータサービス事業の収益性」なのです。