最高は43億3500万円……報酬1億円超の役員が663人と過去最多だったことがわかった。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「日本の労働者の賃金が四半世紀以上も横ばいで実質賃金がマイナス状態である中、役員報酬の高騰はどう考えてもおかしい。多くの社員の犠牲の上に成り立っている」という――。
新聞の見出しに「犠牲」の文字
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最高は43億3500万円…報酬1億円超の役員は663人

円安・株高の影響を受けて企業の役員報酬は上昇している。東京商工リサーチの2022年度3月期決算の「役員報酬1億円以上開示企業」調査によると、開示企業287社、1億円以上の報酬をもらっている役員は663人だった。

報酬開示が義務づけられたのは2010年3月期決算以降だが、社数・人数ともに右肩上がりで増加を続け、今回は過去最高を更新した。

報酬額10億円以上は、Zホールディングスの慎ジュンホ取締役の43億3500万円をトップに8人で前年から3人増えた。1億円以上2億円未満は474人で全体の71.4%を占めた。663人のうち、前年に続いて開示された人は437人であるが、そのうち報酬が増加した人は303人で、約7割を占めた。

役員報酬を押し上げたのはもちろん業績が好転した結果だ。役員の報酬は主に固定報酬、業績連動報酬、役員退職慰労金の3つで構成される。

その内訳は有価証券報告書に記載されているが、かつての役員報酬は固定報酬と退職慰労金だけであったが、外国人株主などの投資家から、がんばってもがんばらなくても同じ報酬というのはおかしいという声が高まり、今ではほとんどの企業が退職慰労金を廃止している。

さらに近年では業績連動型報酬のウエートを高める企業も増えるなど、それなりに改革も進んでいる。今回の役員報酬の総額は1453億2800万円で、前年比32.9%増と大幅に増加した。そのうち固定報酬の割合が39.9%と約4割。残りの6割を業績連動報酬が占める。業績連動報酬は業績や株価が反映され、結果的に今回の役員報酬を引き上げている。

業績や株価の向上は企業努力の結果とはいえ、アベノミクス下の日銀の異次元緩和による株高と“円安バブル”と言われるほど円安効果が輸出企業を中心に企業収益を押し上げたことも周知の事実である。

1億円以上の役員報酬を支払った287社のうち製造業が156社と54.3%を占め、1億円超の663人のうち製造業の役員が367人(55.3%)を占めていることでもわかる。つまり、円安バブルが役員の報酬をアップさせた格好だ。

たとえば非上場化を含めた経営再建策で混乱している東芝は1億円以上の役員が前年の1人から一挙に13人に増えた。人数では日立製作所の18人に次ぐ2位である。

同社の有価証券報告書によると、2021年3月期決算の「執行役」13人の報酬総額は7億7000万円。1人平均約5920万円で、固定報酬がほぼ全部を占める。ところが今年の3月期決算によると、執行役20人の報酬総額は25億9600万円。3月に社長を退任した綱川智氏の5億2300万円を筆頭に13人が1億円超であり、執行役の平均報酬は約1億2900万円。実に前年比2倍超に跳ね上がっている。