反対していた地権者の笑顔に救われた

棚田の上に、稲を極力傷つけないようにと何度も試作を繰り返したマストを丁寧に立て、船を浮かべる。帆を張る作業は天候にも左右され、足場も悪く難航を極めた。誰も経験したことのない作業だった。だが、天は私たちに味方してくれた。撮影当日は天候にも恵まれ、佐渡の方々に協力していただき、約270名の人たちが集結してくれた。私は現状できうる限り完璧な作品を撮り終えることができた。

撮影のため棚田にセットを組み立てる様子
撮影のため棚田にセットを組み立てる様子=著者撮影

撮影が終わった後、地権者に挨拶回りをした。稲を傷つけないように注意を払ってはいたが傷ついてしまった稲も多かった。

一番面積の多い地権者の平間俊雄さんは、終わってよかったけど稲のことを考えると複雑な気持ちだと言っていた。一緒に挨拶回りした地域おこし協力隊の村山さんはその表情を見て泣いてしまった。

最初は反対した地権者の方も笑顔を見せてくれた。

お気に入りのビートルズのTシャツをくれた地権者の方もいた。佐渡の人たちの優しさが身に染みた。

プロジェクトを実行しながら痛いほど実感したのは、佐渡は企画やプロジェクトの内容で動くのではなく、人で動く島ということだ。

撮影は終えることができたが、これから佐渡の方への作品のお披露目が残っている。稲へ傷がつくことを理解し、惜しみなく協力をしてくれた地権者や伝統芸能の継承者の方へ報いるためにも、今秋のお披露目会に向けて全力で準備に取り掛かりたい。

佐渡の棚田も、伝統芸能も急速な人口減少と高齢化により、数年後には消えてしまう可能性が高い。

しかし、今ならまだかろうじて残っているこの二つの佐渡の美しい自然と文化を記録し、その重要性を広く伝えることができる。

少なくとも、そのことで多くの人にこの事実を知ってもらい、考え、継承する道筋が見えてくるかもしれない。

棚田では、大石さんの草の根運動が身を結び島外からさまざまなサポートがあるようにさらに少しずつでもこの写真が佐渡の力になることを願ってやまない。そのためには、まずは佐渡で展示し、さらには島の外にこの作品を発信することが必要である。皆さんのご支援をお願いいたします。

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