突然舞い込んだ「佐渡で作品を作ってみないか」というオファー
キュレーターの菊田樹子さんからのメッセージはいつも突然だ。そして、私を未知の世界へと連れて行く。
2019年8月14日、父の抗癌剤治療の手続きで実家に帰省し病院の待合室で待っている時に彼女からのメッセージが届いた。
「おはようございます。突然ですが、宇佐美さんにどうかなと思うプロジェクトがありまして連絡しました」
私は動揺した。
菊田さんは2016年に私がキプロスという島国で作品を作るきっかけとなった人だ。
「宇佐美さん 別件かつ唐突ですが、キプロス島を撮影する写真家を探してます。滞在制作ですが、ご興味ありますか? 南北に分断されていて、真ん中には国連軍が駐留しています。国民の意志として、いずれは統一へという希望があります」
このやりとりからキプロスでの作品制作が始まり、今現在に至る。
彼女からの電話が来るまでの間、私にはどんな案件なのか想像する時間ができた。未知なる案件に対してワクワクしたが、私は正直そのオファーをうけるべきか悩んだ。私にはキプロスの作品の時の制作費が借金としてまだ残っていた。
手を抜いてやるなら意味のあるものができるわけもない。
さて、どうしたものかと勝手にシミュレーションしては悶絶していた。
アートが与えてくれるチャンスは面白い
彼女からの電話はメッセージの翌日にあった。電話で話した結果、新潟県の佐渡島で行われる芸術祭の中で「Manda-la」(注)のスタイルで作品を作ってほしいという依頼だった。
(注)仏教の「曼荼羅」のごとく、中心人物の個人的、社会的背景を1枚の写真で表現するプロジェクト
佐渡島ならなんとか時間的にもやりくりができるかもしれない。
ほっと、胸をなでおろす自分がいた。
でも、佐渡島のことは正直詳しくはない。制作費もある程度は出るようだが、予算も潤沢にあるとは思えない。
菊田さんの説明によると、「さどの島銀河芸術祭」は2021年にあり、2020年の3月までに作品を制作してほしいとのことだった。
ふと、抗がん剤治療のために入院している父が頭によぎった。父は生死をさまよう状態であり、私が支えなくてはならない。
ただ、こんな暗い状況の中でさえ、アートは私に予想もできないチャンスを与えてくれる。
いつなにが、降ってくるかわからないものだ。「面白い!」と素直に思った。私は彼女からの依頼を引き受けることにした。
佐渡島の文化を伝える一枚を ― 岩首昇竜棚田コラボプロジェクト
https://camp-fire.jp/projects/view/613105
人口減少によって日本の原風景や伝統芸能が失われつつある佐渡で、写真家の宇佐美雅浩が、能の舞台で世阿弥に扮した人物を中心に据え、海から続く稲穂が実った金色の棚田に、伝統芸能を受け継ぐ人々が帆をあげた船に乗って上陸してくる様を表現します。 佐渡は文化が宝船に乗って運ばれてきた島だということを伝えたいのです。
本稿をお読みになってご賛同いただける方のご協力をよろしくお願いします。