私は企業で研修の講師を務めるとき、「あなたの夢や志を書いてください」という課題を出すことがよくある。しかし、これをすらすらと書ける人は少数派で、多くの人は筆記具を手にしたまま、虚空をにらんで動かなくなる。
そこで、お題を変えてもっと身近な人間関係の中での夢を考えてもらう。「職場の人間関係の中で、どんな存在でありたいか」を考えるという課題に切り替えるのだ。すると、「信頼できる人間だと思われたい」「なくてはならない存在になりたい」「一緒に働けて良かったと思われたい」というようなことを皆さんすらすら書かれる。私は、これこそが具体的で現実的なすばらしい夢だと思う。
壮大な夢を持つことを否定するのではない。「みんながもっと笑顔で暮らせる社会をつくりたい」という夢をあなたが持っていたとする。すばらしい夢であるが、このままでは曖昧だし、実現のハードルは高そうだ。そんなとき、「社会」の代わりに「職場」とおいてみてほしい。あなたと話すとき、苦虫を噛み潰したような表情を決して崩さない憎い上司、その人を笑顔にするにはどうしたらいいか。そこから考えてみたらどうだろう。
※すべて雑誌掲載当時
(荻野進介=構成 交泰=撮影)