Q 夢が見つからない
上村光弼●エンパワーリング代表取締役、メンタル&コミュニケーションコーチ。1962年、大阪府生まれ。大学卒業後、92年より日本メンタルヘルス協会にてカウンセリング・ゼミ講師を務める。著書は『一流の部下力』ほか多数。

上村氏回答 確かに早い段階で夢や目標があることもすばらしい。特に医者や弁護士になりたい、あるいは起業したい、など専門家志向や独立志向の強い人にとってはそうだろう。しかし会社員、それも、今いる会社でキャリアを積んでいこうと考えている人にとっては、むしろ夢や目標が邪魔になることすらある。20代のまだ未熟な夢に縛られて、「こんなはずではなかった」と、変に挫折を感じたり、その後の生き方が狭く、窮屈なものになってしまうことが往々にしてあるからだ。

これまで何人も超一流のビジネスパーソンにお目にかかってきたが、共通しているのは、夢を追いかけたというより、目の前の仕事に必死で取り組むことからキャリアを切り拓いてきたという点だ。

例えばコーチングの概念を日本に広めた立役者の一人で、PHP研究所顧問の星雄一さんという人がいる。星さんは同社で専務になるまで計9回部署を変わったが、希望が通ったのは最初の営業配属だけだったらしい。会社の命令だから文句を言っても仕方ない。星さんは与えられた仕事をこなし、新しい部署で毎回成果を挙げて最年少で役員に昇進した。

あるいは増田弥生さんという人がいる。新卒でリコーに入った後、リーバイスやナイキ米国本社で人事の責任者を務めたという、日本人としては稀な経歴を持った方である。しかも、最初から人事への配属だったのではない。入社したときは「楽しいOLになろう」くらいの意識だったそうだ。

その増田さんが入社後間もなく、新聞記事を切り抜いて商品部やマーケティング部向けに配布するという仕事を任された。壮大な夢を持っている人なら、つまらないなあ、と落胆してしまいかねない仕事である。が、増田さんは違った。頼まれもしないのに他社製品や業界動向にも目を配った資料をつくった。すると「増田のつくる資料は役立つ」という評判が立った。その信頼を得て今度は上役にかけ合い、デッドスペースになっていた一角を、自分で資料コーナーにつくり変えてしまったそうだ。資料室ができたことで、必要な人が随時立ち寄って資料を探すようになり、増田さん自身の仕事の負担も減るという効果も生まれたという。

このように、ある仕事を与えられたら、とにかく楽しんでやり切る。そのために、自分が期待されているレベルを上回る一段高い視点から「もっと改善できる点はないか」を常に考え、いいアイデアが浮かんだら即実行する。これが増田流だ。ひとつの仕事をここまでやり切ると周囲が放っておかない。増田さんの場合は、それがグローバル企業の人事責任者というところまでつながった。